濁流の中で ⑩
走るオド達【鷹の爪】の面々の前にバリケードによって砦と化した冒険者ギルドが迫る。
未だにモンスターはオド達を囲っており、砦の冒険者達も下手に魔法で援護ができない状況だった。
さらに、ここまでユーグが放っていたような前方への大規模魔法は砦をも巻き込む可能性があるため、前方のモンスターの一掃も難しい。
「オド!!」
オドが声を掛けてきたユーグを見ると、ユーグはオドを目を合わし、何かを伝えるように顎をくいッと小さく上げる。それを見たオドはすぐにユーグの真意を理解する。
「行きます!!」
オドはそう言うと、両足に力を込めて一気に近くの建物の屋根まで跳び上がる。
それを見ていた砦の冒険者達がにわかに声を上げるが、オドは気にせずそのまま屋根と屋根を飛び移って砦に降り立つと、驚く冒険者を尻目に【鷹の爪】を囲むモンスターを狙撃し始める。
「どおおおりゃ!!“山崩し”!!」
同時にコリンがメンバーと砦の間にいるモンスターを大斧の一振りで殲滅する。
「今です、扉を開けて!!」
オドが叫んで、他の冒険者達が慌てて門を開く。
オド以外の【鷹の爪】の4人が一気に砦の中に駆け込むと、それを追ってモンスターもなだれ込んでくる。
「“炎鷹”」
しかし、モンスターが砦に侵入することは無かった。
ユーグの魔法が迫りくるモンスターを殲滅し、扉が締められる。
次の瞬間、一連の戦闘を見ていた冒険者達が一斉に歓声を上げる。この【鷹の爪】による、魔物溢れる街の横断突破劇は後にヴィルトゥスで広く語り継がれる名場面の一つとなった。
◆
「うーむ、、、。」
その頃、冒険者ギルドの長であるライリーは執務室から街の様子を見下ろしていた。
「いざ始まるとこうなるんだな。まさかこれ程とは。」
「そうだな。モンスターが減る気配がないどころか、ダンジョンの入口からはマナが溢れ続けているぞ。これじゃ持ち堪えられなくなるのも時間の問題だ。終わりが見えん。」
ライリーの呟きに同意してダンが言う。
各支部長が砦の防衛を指揮する中、執務室にはライリーとダンの2人が座る。
「遊撃部隊の状況はどうだ?」
「駄目だ。流石にこの量のモンスターを相手に街を移動しながら戦うのは無理がある。今は元冒険者と一緒に支部長の指揮下で砦の防衛をしているよ。」
「、、、オド君のパーティーもか?」
「いや、彼らはそもそも冒険者ギルドに来れていない。丘に避難したか、どこかの大規模クランのホームに入ったかのどちらかだろう。それにユキの所も来れてない。」
「そうか、、、。」
ライリーはそれだけ言うと黙ってしまい執務室に沈黙が流れる。
「取り敢えずは、マナの流出を止める方法の調査と大規模クランへの補給路の確保が先決課題だな。」
少し経ちライリーがそう呟き、ダンも同意するように頷く。
その時、ターニャが執務室に駆け込んでくる。
「ダン!! ライリー様!! 街を横断してオド君達が冒険者ギルドに入場しました!!」
その言葉にライリーが目を細める。
「久々の良いニュースだな。もう考えるのも嫌になった。」
ライリーがそう言って傍らの剣を握る。
「ダン、付いてこい。身体は鈍ってないよな?久々に俺らのパーティーも復活するか。」
「はいはい、承りました。」
少年のように笑うライリーにダンはそう言って立ち上がる。
「ああ、暴れようぜ。ターニャ、クルツナリックとティミーも呼んでくれ。南西側だ。」
そう言い残し、ライリーは執務室を後にするのだった。
「やあ。こんにちは。魔石の鑑定ぶりだね。」
無事冒険者ギルドへの入城を果たした【鷹の爪】の面々は偶然、階段を降りてきたライリーとダンと遭遇する。ライリーは軽く手を挙げてユーグに声を掛ける。
「ご無沙汰しております。」
ユーグはライリーに深々と頭を下げる。
「そんなに畏まらなくていいよ。そうだ、丁度いい機会だ。君達も付いてくるといい。」
オドに一瞬目を向けながらライリーはそう言って歩き出す。
いきなりの誘いに躊躇する雰囲気の【鷹の爪】にダンが頷いて付いてくるように伝える。
「呼び出して悪かったな。」
ライリーとダン、それに【鷹の爪】の5人が砦の南西側に行くと、既にクルツナリックとティミーがライリーの到着を待っていた。
「いやいや、気にせんでいいよ。それに後輩達もいるようだしの。」
そう言ってクルツナリックが笑い、ティミーもオドに目を向けて微笑む。
オドはてっきりティミーは丘の上に避難したと思っていたため内心驚いていた。
「ああ。久々に戦うんだ。栄誉を記憶にも留めてもらう良い機会と思ってな。」
「ほっほっほ。それはいい。して、何をするんだい?」
「ああ。まずは水路の確保をする。具体的には冒険者ギルドの水堀と川を結ぶ水路をモンスターの浸食が無いように保護する。支障はないか?」
ライリーが言うと、ダンとクルツナリック、ティミーの3人が頷く。
「そうだ、ユーグ君。君も少し手伝ってくれ。」
「はい。」
ライリーがそう言ってユーグを見ると、ユーグは素直に従う。
「うむ、では行こう。」
そう言ってライリー達4人のOB冒険者が歩き出す。
「これは、すげえものが見れるぞ、、、。」
その後ろでコリンが興奮気味に呟くとハーザーとカルペラが全力で頷く。
「全員がボス・スレイヤーになった伝説のパーティーの復活だ。これが見れたのだけはオーバーフローに感謝だな。」
「私達も後輩の為に頑張らなければね、クルツ」
「ほっほっほ。後輩の参考になるぐらいはやらないとな。」
コリンの声が聞こえていたのか、ティミーがそう言うとクルツナリックもそう言って意気込む。
「それじゃ、久々に頑張ろうか。」
ライリーの言葉と共に扉が開かれる。
伝説の、そして、かつてキーン・カノプスが所属していたパーティー【Crown of Regalia】の1日限りの復活が始まった。
ここまでご覧になって頂きありがとうございます。
拙い文章ですが、少しでも気に入っていただけましたらブックマーク、高評価をしていただけると幸いです。
評価は↓にある【☆☆☆☆☆】のタップで行えます。
また誤字脱字の報告、感想もお待ちしています。
Twitterもやってまーす。(@Trench_Buckets)