運命の子 ⑦
キーンさん、戦闘が始まると敬語になります(謎設定)。
「岩場の辺りだ、囲め!!」
数で圧倒しようとドーリーは9人の部下で岩場を取り囲むように整列しジリジリと近付く。ヒョイッと一人の獣人が岩場の中で一番高い岩に飛び乗るのが見えた。
「弓を持て。用意のできたものから矢を放ってよし!!」
まずは1人目…。そう考えながらドーリーは部下に指示を出す。
次々と矢が岩上の獣人に放たれ、毒の塗られた鏃が岩上へと殺到する。しかし、獣人を貫くと思われた矢は空中で何かにぶつかったかのように停止し、その場に落下する。次の瞬間、岩上の獣人が矢を放ち、物凄い速度で矢は部下の1人を鎧もろとも貫く。それを見てドーリーは小さく舌打ちする。
「魔法の使い手か…。」
こちらの矢が停止した事、物理的にあり得ない速度で飛んできた矢を見るに恐らく敵は風魔法の使い手と思われる。ドーリーは矢での攻撃を諦め、馬を進めて接近し白兵戦に持ち込む作戦に切り替える。通常、魔法使いは魔法発動に時間がかかるという性質から近接戦闘を好まない為、通常であればこれは最善の策であるといえた。そう、相手が通常の魔法使いであれば。
「もう一人…」
そう呟きながら岩の上に立つキーンは矢を構え、、、放つ。
キーンの手元を離れた矢は魔法によって空中で一気に再加速しドーリーのもとへと一直線に飛んでゆく。ガキンという鈍い音がしキーンの放った矢はドーリーが肘に装着している小型盾に突き刺さる。
「ほう」
それを見たキーンは少し驚いたような顔をする。
キーンの放つ矢はその速度と喉という顔に近い部分に射られることから矢に気づかないまま絶命するか気づいたとしても避けられずに絶命するという結果になることが多いためドーリーが矢を受け止めたのはキーンにとって珍しい結果であった。
「時間稼ぎに終始せずに済みそうですね…。」
キーンは岩を降り、ゆっくりと敵方へと歩き出す。
敵方も騎馬から降りキーンの周りを間隔をあけてグルリと取り囲むとジリジリと近づくがキーンの放つ殺気に足が止まる。キーンはまだ剣も抜いていないが、それなりに鍛錬を組んでいる親衛隊の面々には確かにこれ以上進むと危ないという感覚があった。そのまま見合ったまま互いに動かない空白の時間が生まれる。
「流石は枢機卿親衛隊、戦い慣れてますね。」
そう呟くとキーンはゆっくりと腰に下げている剣の柄に手をかけると、一気に剣を抜き放つ。
キーンの抜いた剣は諸刃の直刀であり、翡翠色の刀身は淡く、しかし確かに光を帯びていた。剣を抜いたキーン自身にも変化が起きており、黒かった瞳は刀身と同じ翡翠色に輝いている。
「それでは、、、参ります!!」
キーンが一気に真上へと跳び上がり、戦いの火蓋が切って落とされた。
「魔剣か…」
ドーリーは抜き放たれた翡翠色の剣を眺め忌々しげに呟く。
魔剣とは読んで字の如く魔力を帯びた剣なのだが、それは人の手によって作成されることはできない代物であり帝国内に3本、大陸を見渡しても片手で数えられるほどしか存在していないとされている。多くの魔剣はその稀少性故に常に持ち主を変え続ける運命にあるが、ドーリーも実際に実物を目にするのは初めてである。
「相対あいたいするものとしては一番見たくなかったな…」
そう呟くドーリーの目の前で魔剣を持った敵は空高く跳び上がる。
跳び上がったキーンの姿はちょうど太陽と重なり眩しさで見えなくなってしまう。次の瞬間、ドーリーの部下の1人が真っ二つに切り落とされ、キーンとドーリーの目が合う。
「チッ」
ドーリーは物凄い勢いで自分に向けて横殴りされる翡翠色の光を間一髪のタイミングで避けると、現状の戦力ではこの魔剣持ちに太刀打ちできないことを悟り、部下に退却を指示する。
「させませんよ。」
そんな言葉とともに今度はドーリーの真向かいでキーンを囲んでいた部下が背中から斜めに切り落とされ、再びドーリーはキーンと目が合う。キーンはドーリーに切り掛かってからほぼ一瞬でキーンを囲む円の真反対まで移動したのである。
「クソッ」
部下の1人がキーンに向かって短剣を3本投擲するが短剣がキーンのいた場所に達する頃にはキーンは再び円の中心に立っていた。逃げられないという感覚が本来取り囲んでいる側の枢機卿親衛隊側に伝播する。
「もうしばらく付き合っていただきますよ…。」
横目に逃走しているコウ達の様子を確認しつつキーンは再び翡翠色に輝く剣を強く握るのだった。
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