猫又の真のすがた、現る!
この作品は黒森 冬炎様主催の『変身企画』参加作品となっています。
遠くでパリンッと、なにかが割れる音がして、和花は目を覚ましました。風邪で寝こんでいるときのように、頭がずきずきと痛みます。
「ここは、どこ? 確かわたし、保健室で」
ハッとして和花は起き上がりました。いつの間にか、真っ白な和服に着替えさせられています。
「これって、昔見たことある。結婚式で、花嫁さんが着てたやつだ。じゃあわたし、やっぱり猫又と、結婚させられるんだ」
足ががくがくとふるえはじめました。のどの奥が、からからに乾いて痛みます。だんだんと視界がにじんできました。
「どうしてわたしが? わたし、なにも悪いことしてないのに。結婚なんて、まだ誰かを好きになったこともないのに、どうして」
涙がぽたぽたとあふれてきます。頭の中に、あまのサファイアブルーのひとみが浮かびました。
「あまちゃん、助けて!」
お日さまがあるときも、神社というものはさびしい雰囲気がありますが、夜になるともはや恐ろしい雰囲気しかありませんでした。しかもここは、猫又という妖怪が住む神社なのです。ありすは足をがたがたとふるわせながら、一歩一歩社へ近づいていきました。
「ネズ吉さん、和花ちゃんはいったいどこにいるの?」
「きっとあの社の中でチュー。あの中から強い妖気を感じるでチュー」
「おじさんも和花ちゃんのにおいを感じるよ、ふひひひ」
「はげオヤジはだまってるでチュー」
ネズ吉にいわれて、はげオヤジはにやにや笑いながら口を閉ざしました。
「でも、あまさんもまろんさんもいないのに、わたしだけで大丈夫かしら」
「こうなったらもうなんとかするしかないでチュー。猫又が力を取り戻したら、この町全体が支配されてしまうでチュー。人間たちは猫又の奴隷にされて、妖怪だらけの町になってしまうチュー」
ありすはぎゅっと、スカートのすそをにぎりしめました。懐中電灯の光を社に向けます。社は青白い光で包まれています。
「じゃあ、行くよ」
ついに社の扉に手をかけ、ぐいっと引き戸を引いたのです。ずっと使われていなかったのでしょう、がた、がたっとつっかえながらも、なんとか引き戸が開きました。
「なんだか、外から見るよりもずいぶん中は広いのね」
懐中電灯で中を照らしながら、ありすがぽつりとつぶやきました。
「きっと猫又の妖術が、この社全体にもかけられているんだチュー。気をつけるでチュー」
「ひゃっ!」
思わずありすが声を出しました。突然左右の壁が、ぼうっと明るくなったのです。いつの間にかろうそくに火がついています。
「わっ、また!」
ぼうっ、ぼうっと、手前のろうそくから、順々に火がついていきます。ありすはきゅっとまゆを寄せて、ポシェットから白いお札を取り出しました。魔よけのお札です。
「新婦知人の方々よ、ようこそいらっしゃった。ささ、ごゆるりとしてまいれ」
奥のほうから、澄んだ声が聞こえてきました。それと同時に、真っ白い毛並みの、ふっくらしたネコが現れたのです。しっぽが二またに分かれ、その先に青白い炎がともっています。
「あなたが、猫又ね」
「さよう。ささ、なにをしておられる。本日は祝いの席。どうぞ座られい。すでに宴の用意はできておりますぞ」
いつの間にかたたみの上に、お膳が並べられていました。山盛りのご飯に、お皿に鯛が丸ごと一匹乗せられています。色とりどりの野菜の煮物、お刺身、茶碗蒸しもあります。
「すごい料理……」
「これだけの料理は、おじさんも見たことがないねぇ、おじさんは食べられないけど」
「ささ、どうぞ座られい。花嫁のしたくもすでに整っておられるぞ」
「和花さんが?」
猫又はにたっと、いやらしく笑いました。
「さよう、今宵はまろと和花との婚礼の儀。めでたき席ゆえ、そちら協会の無礼も、全て水に流して差し上げよう」
「その必要はないにゃ!」
ろうそくの火が、いっせいに吹き消されました。猫又のしっぽだけが、寒々しい青白い炎をともしています。
「猫又、覚悟にゃ!」
猫又の背後で、あまが回転ネコキックをしかけました。ぶうんっとものすごい風で、猫又のしっぽの炎が片方かき消されました。
「ぬぅっ、曲者め! であえ、であえ!」
猫又の叫びとともに、がらがらっと左右の引き戸が開かれました。真っ黒な黒装束を着た男たちが、いっせいにあまを囲みました。
「おバカネコ、つめが甘いにゃ!」
黒装束たちが、バタバタと倒れていきます。まろんが黒装束の男たちに、なにか札を投げつけています。
「これはニャンシーの札! まろの下僕たちに、妖術をかけるとは不届き千万!」
「あまさん、まろんさんも!」
ありすの声に、まろんがにっと笑いかけました。
「さあ、猫又、白状するにゃ! 和花をどこにやったにゃ」
「和花ちゃんに変なことしてたら、承知しないにゃよ」
猫又は答えずに、くっくっくと低い声で笑っています。
「なにがおかしいんにゃ?」
「そちたちは、これでまろに勝ったつもりかえ? 三百年生きしまろの力を、見くびるでないぞ」
猫又はぽんっと宙返りしました。すると、あまと同じ長く真っ白な髪をした、切れ長の目をした女の人に変化したのです。白装束を着て、全身真っ白です、唯一両方の肩にだけ、青白い炎がともっていました。
「まろの真の力を、見せてしんぜよう」
両肩の炎がゆらめきました。いつの間にか猫又が、三味線を持っています。
「あれは、まずいでチュー!」
ネズ吉の叫びと同時に、猫又が三味線をジャンジャンッとかき鳴らしました。
「ふにゃあっ!」
まろんとあまが、同時に悲鳴をあげました。二人とも人間の姿から、ネコの姿へと戻っています。まわりで倒れている黒装束の男たちも、ネコの姿に変わっています。
「あの三味線は、猫又が今まで精気を吸い取ってきたネコたちで作られているんでチュー。だからニャンフー使いがその音を聞くと、全ての妖力を吸い捕らえちゃうんでチュー」
気がつけば、はげオヤジの姿も見えません。きっとあの三味線の妖力に、やられてしまったのでしょう。
「さあ、これで残りはそちのみ。よく見れば、そちも霊感を持っているようじゃのう。どうじゃ、そちをまろの側室にしてもよいぞ」
猫又がじりじりとありすに近づいてきます。
「いやっ! こっちにこないでよ!」
「くくく、気の強いおなごもまろの好みよ。では、力ずくで……」
「いやーっ!」