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ニャンシー使いありす、現る!

この作品は黒森 冬炎様主催の『変身企画』参加作品となっています。

 ――助けて、助けて――


 和花(のどか)はまっくらな闇の中を、光を求めてさまよい続けていました。どこにいっても、誰もいなくて、なにも見えません。叫んでも、闇に声がさらわれてしまいます。


 ――あまちゃん、どこにいるの? 助けて、怖いよ――


 そのうち、ほの青い光が、遠くにいくつか見えました。あまでしょうか? 和花は何度も手をふりました。


 ――助けて、あまちゃん、助けて――


 青い光はだんだんと近づいてきて、そして、一匹の大きなネコになりました。しっぽが何本にも分かれています。


 ――あなたは、だれ? あまちゃんはどこなの――

 ――ささ、待ちかねたぞ、姫よ。まろと来るのじゃ――


 青白く光るそのネコは、和花の手をぐいっとつかんで引っぱります。手を振りほどこうとしますが、力が入りません。


 ――どうして、助けて、あまちゃん――




「和花、和花!」


 バッとベッドから起き上がる和花に、あまがぎゅうっと抱きつきました。


「大丈夫だったにゃ?」

「あまちゃん……? えっ、夢?」

「ずっとうなされてたんだにゃ。覚えてないのにゃ?」


 あまの青い目にじっと見つめられて、和花は首をふりました。


「大きなネコさんがいたわ。青白くって、それに、しっぽが何本も」

「ホントにゃ?」


 あまがぐいっと顔を近づけます。和花は目をぱちぱちさせながらも、うなずきました。


「うーん……」


 あまはじっと考えこんでいましたが、こくこくと何度もうなずきました。


「こうなったら、和花、あたしも学校についていくにゃ」

「えっ? だめだよ、学校にネコ連れていったら、わたし、先生に怒られちゃうよ」

「だめにゃ! 怒られてもいいから、ついていくにゃ」


 あまはぽんっとネコの姿に変身して、和花の足に顔をすりつけます。


「もう、じゃあ学校までならいいよ。でも、教室にはきちゃだめだからね」


 あまは返事するかわりに、にゃーとまのぬけた鳴き声を出しました。和花は心配そうですが、あまは顔をぷいっとそむけて、部屋の外へ出ていってしまいました。




 あわただしくランドセルを背負うと、和花は勢いよくドアを開けました。


「あら、今日はずいぶん早いのね。忘れ物ないの?」


 うしろからママの声が追いかけてきます。


「大丈夫、いってきまーす!」


 和花は駆け足で進んでいきます。足元には、ネコの姿をしたあまが、トコトコとついてきています。本当についてくるようです。和花はちょっぴり迷惑そうにまゆをひそめました。


 ――あまちゃんったら、子ども扱いして。それに、もう忘れちゃったのかしら? 前に学校に連れて行ったら、先生にすっごく怒られたのに――


 和花はあたりをきょろきょろ見回しました。早めに家を出たかいもあって、通学路には誰もいません。和花はしゃがみこんで、あまの頭をなでました。あまは首をかしげて、にゃーと鳴きます。


「ねえ、あまちゃん、これなーんだ?」

「にゃにゃ? にゃーん!」


 和花がポケットから取り出したものを見て、あまはゴロゴロとのどを鳴らし始めました。


「おいしそうでしょ? 新しく出た、『モンブランキャンディ』だよ。あまちゃん栗のお菓子が大好きだもんね」


 あまは目を細めて、のどを鳴らしながら和花の手に顔をすりつけます。和花はキャンディの袋を開けると、地面にころころ出しました。


「飲みこんじゃだめよ、ぺろぺろして、じっくり味わってね」


 和花は立ち上がると、そそくさとその場から逃げ出しました。あまはモンブランキャンディに夢中で、まったく気がつきません。しかしその様子を、一匹の茶トラがじっと見つめていたのでした。




「えへへ、あまちゃんったら、ホントに甘いものに目がないんだから」


 和花はのんきに鼻歌を歌い始めました。四月の空気はすがすがしく、なんだかうきうきしてきます。いつもよりも三十分も早く出たので、ちょっとぐらい寄り道しても大丈夫そうです。


「そうだ、またネコ公園に行ってみよう。ニャンシーが操ってないネコさんもいるかもしれないし」


 ネコ公園とは、通学路の途中にある小さな公園でした。そこの滑り台には、ノラネコがたくさんいるので、子どもたちからはネコ公園と呼ばれているのです。再び駆け足になって、和花はネコ公園に向かいました。


「あれっ、誰かいる」


 ネコ公園には、和花のほかに誰かいました。赤いランドセルを背負った女の子です。


 ――あの子は、ありすちゃん――


 和花と同じ五年生の、三上ありすでした。肩まで届く長い髪が、風でさらさらとなびいています。


 ――どうしよう、話しかけたいけど、話しかけたらびっくりして、ゆうれいに間違えられちゃうかも――


 本当かどうかはわかりませんが、ありすも霊感を持っていると、うわさされていたのでした。その証拠に、いきなり教室で悲鳴をあげたり、誰もいない空間に話しかけたりしていたらしいのです。クラスが別の和花も、うわさ好きのクラスメイトたちからよく聞かされていました。


 ――どうしようかな、あ、ありすちゃん、なにかしてる――


 公園の入り口でまごまごしていると、ありすがなにかを地面にまき始めました。すると、どこからともなく、ふらふらとノラネコたちが集まってきたのです。しかもみんな、しっぽをぐったりとたらして、元気がなさそうです。まるで操られているような……。


 ――もしかして、まさか、ありすちゃんが――


 寄ってきたノラネコたちの額に、ありすがなにかしています。ありすに額をさわられたノラネコたちは、目が不自然なまでに光りだしたのです。まるで真夜中に目が合うような、不気味な感じに、和花はヒッと悲鳴をあげてしまいました。


「そこにいるのは、誰?」


 ありすがパチンッと指を鳴らしました。一斉にノラネコたちが、和花に飛びかかってきます。逃げるまもなく、和花はノラネコに囲まれてしまいました。


「許して、ごめんなさい」


 ノラネコたちに追い立てられ、和花はありすの前に連れてこられました。ありすの目が大きく見開かれました。


「あなたは、山崎和花さん!」

「ありすちゃん、あの、これはその……」


 ありすはじっと和花の顔をのぞきこんでいました。


「どうして、だまってたの?」

「えっ?」


 突然たずねられて、和花は思わず聞き返してしまいました。ありすのぱっちりした目が、きゅっと三角に変わりました。


「和花さん、本当は見えているんでしょ?」

「見えてるって?」

「とぼけないで! あなたはわたしと同じで、霊感があるって聞いたわ。でも、それを隠して、見えないふりをしてるから、ゆうれいたちに気づかれないって。それでかわりにわたしが、ゆうれいたちにおどかされて……」


 最後のほうは、ほとんど鼻声になっていました。細い肩をふるわせるありすに、和花はこわごわ聞きました。


「それじゃあ、あのうわさは、本当だったの」


 ありすが顔を上げ、甲高い声で叫びました。


「知ってたくせに! 知ってても、いわなかったんでしょ! わたしがゆうれいたちにおどかされてるのも、怖くて夜眠れないのも、全部知っていて、それでわたしを見捨てたんでしょう!」

「そんな」


 言葉を失う和花を、ありすはにらみつけます。和花は必死に首をふりました。


「違うよ、本当にあなたが霊感を持っていたなんて知らなかったの。確かに、わたしもゆうれいのこと見えるよ。でも、ありすちゃんも同じだったなんて、それで困っていたなんて、本当に知らなかったの!」


 足元のノラネコたちが、シャーッとうなり声を上げました。和花の口からヒッと悲鳴がもれました。


「もういいよ、そんなのどうだっていい。でも、和花さんには罰を受けてもらうわ。わたし、ずっとゆうれいたちにおどかされて、苦しめられた。その思いを、あなたにも分けてあげる」


 ありすはなにかぶつぶつと唱え始めました。ノラネコたちが、ふらふらと後ろ足で立ち上がり、和花にじりじりと近づいてきます。


「やっぱり、ありすちゃんがニャンシーだったのね」

「そうよ、本当はもっと手下を集めて、それからあなたに仕返しするつもりだった。ちょっと予定が狂ったけど、今日はあなたのネコちゃんもいないみたいだし、ちょうどいいわ」

「あまちゃんのことも知っているの?」

「もちろんよ、それに、あなたが影でこそこそ、わたしのところにゆうれいを送りこんでいたことも、全部聞いたわ」

「そんな、そんなことしてない! わたしだってゆうれいからおどかされてたのに、それを他の人のところに送るなんて、そんなことできないし、しないわ!」

「うそよ! だって先生がそうだって」

「先生って、誰なの?」


 ありすはハッと口を押さえました。


「もしかして、その先生から、ニャンシーの技を教えてもらったんじゃ」


 ありすは再びぶつぶつと呪文を唱えだしました。ふらふらしていたノラネコが、いきなり和花に飛びかかり、つめで引っかいてきたのです。


「きゃっ!」


 なんとかノラネコをかわしましたが、和花はその場にしりもちをついてしまいました。


「とにかく覚悟しなさい! みんな、やっちゃって!」


 ノラネコたちがいっせいに飛びかかってきます。和花はぎゅっと目をつぶりました。

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