ニャンフーネコ娘あまちゃん、現る!
この作品は黒森 冬炎様主催の『変身企画』参加作品となっています。
全部で9話まであります。本日2/28中に全て投稿する予定です。
それでは最後までお楽しみいただければ幸いです(^^♪
「もう、パパのバカ、どうして夜中にあんな怖い映画見るの?」
暗いろうかを、和花は背中を丸めて進んでいきます。五年生になりたての和花は、怖い話が大の苦手なのです。和花はぶるるっと身震いしました。
「やっぱり怖い、けど、早くトイレに行かないと」
忍び足になって、和花はトイレを目指します。一度怖いと思ってしまうと、目に映るもの全てが、どれもこれもおばけのように見えてしまいます。
「どうしよう、トイレに入ったら、いきなりおばけが出てきたら。便器から手が出てきたら……」
それでももう限界だった和花は、電気をつけるとすぐに便器にすわりました。ひんやりとした感触にぞくっとします。
「ふぅ……。よかった、もれなくて。早く戻って寝よう」
用を足し終わり、和花がトイレのドアを開けた瞬間でした。
「ふひー、和花ちゃん、待ってたよ」
「きゃあっ!」
そこにははげあがった頭の、小太りなおじさんが立っていたのです。しかもそのおじさんのからだが、透けて見えます。和花の顔が青ざめました。
「はげオヤジさん!」
「ふひー、ようやく二人きりになれたね、和花ちゃん。いつもあのネコ娘に邪魔されてたけど、あの子は今ごろネコの会議だからね。さ、おじさんと楽しいことしようね」
「やだ、こないで!」
和花ははげオヤジのからだを通りぬけ、トイレからかけだしました。ぬめぬめべとべとと、不快な感触とともに、「おひょうっ」というはげオヤジの気持ち悪い声が聞こえてきますが、背に腹は代えられません。必死で逃げる和花を、はげオヤジのゆうれいは、ふひひひと笑いながら追いかけてきます。
「和花ちゃん、待っておくれ、ふひひひ、おじさんと通り抜けごっこしようよぉ」
「いやぁぁぁっ!」
自分の部屋にかけこむと、和花はがちゃりとカギをかけました。その扉をするりとすりぬけて、はげオヤジが現れました。
「ふひひひ、ふひひ。和花ちゃんはおバカだねえ、おじさんゆうれいなんだよ? カギなんかかけても、無駄だねえ」
和花はベッドのすみにおいこまれてしまいました。涙をぽろぽろ流しながら、はげオヤジをにらみます。
「こないで、どうしてわたしのこと狙うのよ?」
「ふひひひ、それは当然、和花ちゃんが霊感を持っているからさ。おじさんは、小学生のかわいい女の子を驚かすのが大好きなんだよ。でも、霊感を持ってる女の子はなかなかいないからね。さ、それじゃおじさんと遊ぼうか」
はげオヤジが和花に近づいたときでした。突然窓がガラッと開けられて、なにかが部屋に飛びこんできたのです。
「げげっ、お前は!」
「この変態ゆうれい! またこりずに和花に近づいてきたにゃね!」
飛びこんできたのは、真っ白な長い髪の女の子でした。ガリガリガリッと、女の子ははげオヤジの顔を引っかきました。はげオヤジが悲鳴をあげます。
「なにしやがる、おじさんのダンディな顔が、血だらけになっちゃったじゃないか」
「ゆうれいだから、血は出ないにゃ。それより和花、大丈夫にゃ?」
女の子は和花に近づきました。
「あまちゃん、ありがとう、とっても怖かったよぉ。でも、今日はネコの集会だったんじゃないの?」
あまと呼ばれた女の子は、切れ長の目をさらに細めました。
「だれもいなかったから、帰ってきたんだにゃ。ネコはみんな気まぐれだから、集会に参加しないなんてことは日常茶飯事にゃ。それよりはげオヤジ、覚悟するにゃ! 和花に変なことするやつは……」
あまのサファイアブルーのひとみが、きらきらと輝き始めました。はげオヤジはじりじりとあとずさります。
「くらえにゃっ! ニャンフー奥義、ネコパンチ百連打!」
ぐるるるんっと、あまがものすごいスピードで回転し、はげオヤジのゆうれいをぼこぼこぼこっと殴りまくります。
「ぐえっ、ぎゃ、いで、やめ、やめでぐれぇ!」
はげオヤジのゆうれいは、煙のように、夜の闇にとけていきました。
「ふんっ、今度和花に近寄ったら、こんなもんじゃすまないからにゃ!」
あまがベーっと舌を出します。和花は思わず笑ってしまいました。
「あまちゃんったら。でも、本当にありがとう。あまちゃんが戻ってきてくれてから、安心して眠れるわ」
「これくらいどうってことないにゃ。和花はあたしの大事なご主人様だからにゃ」
ぽんっとあまが宙返りすると、一匹の真っ白いネコが現れました。あまの本当の姿です。和花はあまをぎゅっと抱きしめ、頭をなでます。あまはごろごろと、甘えるような声を出しました。
「お見事でチュー。さすがは天才ニャンフー使いでチュー。はげオヤジをいとも簡単にやっつけるとは」
ベッドのすき間から、小さなねずみが現れました。和花がヒッと悲鳴をあげます。
「あまちゃん、ねずみよ! 早くやっつけて、ネコでしょ!」
「和花さん、いい加減なれてほしいでチュー。人間に悪さするゆうれいを退治する、スーパーネコたちの集まり、『ニャンフー協会』のメッセンジャー、ネズ吉でチュー」
ネズ吉と名乗ったねずみは、しっぽをぴくぴくと動かしました。再びぽんっとネコのあまが宙返りして、人間の姿に変身しました。
「和花びっくりしすぎだにゃ。それにあたしは、ねずみなんて食べないにゃ」
「そうでチュー。ニャンフー使いは、特殊なネコにしかなれないんでチュー。ねずみや魚には見向きもしないで、甘いものばかり食べるネコにしかなれないんでチュー」
「あっ、そうだったね。あまちゃんも、いっつも甘いものばっかり食べてたから、あまちゃんって名前付けたんだもんね」
和花がちらっと舌を出していいました。あまは軽くため息をついて、ネズ吉に顔を向けました。
「それで、いったいなんの用にゃ? もう遅いから明日にするにゃ」
「そうはいきませんでチュー。これは和花さんにも関係がある話だからでチュー」
「和花に? じゃあもしかして、猫又が関わってるにゃか?」
「猫又って?」
和花に聞かれて、あまはぶるぶるっと首を振りました。真っ白な髪がばさばさに乱れます。
「なんでもないにゃ。和花には関係ないにゃ」
「でも、いまわたしにも関係あるって」
あまはネズ吉をむんずっとつかんで、手をぶんぶん振りはじめました。
「やめてチュー! なにするチュー!」
「ほら、ネズ吉もそんなこといってないっていってるにゃ。和花の聞き間違いにゃ」
和花はあわてて、あまの手にしがみつきました。
「わかったから、だからネズ吉さんを離してあげて!」
あまはネズ吉をぽいっと放り投げました。
「痛いチュー、目が回ったチュー!」
「そんなことより、なんの用か早くいうにゃ。あ、和花には聞こえないようにいうにゃよ」
あまはもう一度ネズ吉をつかみ、耳元に近づけました。ネズ吉はひげをぴくぴくさせながら、あまになにかささやきました。
「えっ、ニャンシー使い!」
「ニャンシー? なにそれ?」
「それはまずいにゃ。あっ、だから集会に他のネコたちが参加してなかったんだにゃ」
こくこくとうなずくあまの手を、和花がくいくいっと引っぱりました。
「ねえ、ニャンシーってなんなの? やっぱりゆうれいの仲間なの?」
「ゆうれいとは違うにゃ。確かにあたしたちニャンフー使いは、ゆうれいをやっつける力があるにゃけど、ニャンシーはゆうれいとは違うにゃ」
あまのサファイアブルーのひとみが、きらりと光りました。
「ニャンシーは妖術の一種で、ネコを自由自在に操る技だにゃ。またたびとか、いろんなものをしみこませた特殊なお札を、ネコの頭にはりつけるんだにゃ。そうすると、ネコを自由に操れるんだにゃ。怖いにゃ……」
「なんだかキョンシーみたい。でも、それじゃあまろんちゃんがいなかったのも」
「まろん?」
あまが首をかしげました。和花がうっとりと目を細めます。
「うん。近所にいるノラネコさんだよ。茶トラのネコさんなの。通学路によくいるから、学校に行くときによく遊ぶの。緑色の目が、とってもキュートなんだよ」
「だめにゃ! ただでさえ和花は、ゆうれいとかに好かれやすいんだから、ノラネコなんかと遊んじゃだめにゃ。それに……」
あまはもごもごと口ごもってしまいました。
「どうしたの?」
「なんでもないにゃ。ともかく、そのニャンシーはあたしに任せるにゃ。和花は危ないことしたらだめにゃ」
あまは細い目をしっかり見開いて、和花を見つめました。和花はとまどいながらも、うなずきました。
「じゃあ寝るにゃ。和花、明日はノラネコなんかと遊ばずに、まっすぐ学校に行くにゃよ」
ぽんっと宙返りして、あまはネコの姿に戻りました。するするっと和花のふとんに入っていきます。
「もう、ママみたいなこというんだから」
和花もふとんにもぐりこみ、あまのからだを抱きしめました。