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雲の切れ間からそそぐ光

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 にぁぁん。

 庇護欲を誘う微かな声。


 どこからかな、と駐輪場をのぞき込むと20代後半の女性が、さっと何かを自転車のカバーの中に突っ込むのが見て取れる。

 見覚えがある顔だなぁと、ふと気付く。


「ん?」


 彼女の足元には猫。だが、ちょっとだけ変わった様相。尻尾の根元に小さなコブ。


「あのー何か?」

「あ、いえいえー何でもありません。ちょっと知り合いが飼っている猫に似ていたので」


 と、にっこりと笑いながら女性の少しだけ挙動不審な問いに答えると頬を赤らめながらも


「そ、そうですか」


 ええ、と会釈を返しその場を去る。


(見ちゃったなぁ)


 コンクリの壁には『ペット可賃貸マンション入居者募集』、そして此方を訝しがる素振りの女性。


 ここは退散と軽やかな足取りで立ち去る。


 空を見上げれば夕暮れ雲が赤く染まっている。もうすぐ丑三つ時。人と人で無い者がほんの少し交わる時間。


「他人事、と切り捨てられたら良いのだけど」


 人より淡泊だとは思うのだけど、同居人である友人からはバカが着く程お人好しとも称されている。

『あの子』の為にもならないし。


 散歩コース、どの道同居人のタバコ銘柄を取り扱っているのはあの店だけ。

 また通ることもあるだろう、と呑気に帰路に着く。


 暫くぶりの同じコース、今日は時間を少しだけずらす。馴染みとなったスーパーのパートの交代よりわざと50分程ずらす。


「うん、予想通り」


 鮮魚や肉がよく入れられているパックに盛られたシーチキンに似たもの。多分猫缶だろうなぁと推察。はぐはぐとそれを夢中になって食べている猫の姿。

 気持ちは分かる。だけど、これは良くない。

 一方通行の愛情とまでは言わない、だけど。


「ねぇ、キミの猫?」


 階段下の影に隠れていた女性、あのスーパーの店員だ。


「やっぱりキミだったんだね」

「……いけない事とは分かってます、だけど私が見捨てたらこの猫…ッお願い見なかった事に」

「うん、そうしてあげたいけど。この猫……既に死にかけているよ」

「嘘!?だって現にこうして」

「見てごらん」


 軽く彼女の目の前に掌をひらひらとかざす。


「っ!?!」


 やせこけ、尻尾が二つに分かれ始めた猫の姿がそこにはあった。最初から俺にはそう見えていたのだけど。


「情は恨も奇跡も生む。勿論この猫を元に戻すことも可能。キミの覚悟次第だけど」

「……何で?」


 ふるふると震えていた拳がどん、と樹の胸に叩きつけられる。


「このマンション、ペット可なのにさらに保証金何十万も払えとか無理に決まってんの!私の給料じゃ無理なのっ」

「でもそれを選んだのもキミだ」

「――――っ!」


 悔しいのだろうが震えながら、長身の俺を睨むように下から見上げてくる女性。


「だって、私もこれが精一杯」


 崩れ落ちそうな彼女に。


「一つ提案、キミの覚悟次第と言っただろう?キミがちゃんと正式にこの猫を飼える環境を整えられるなら、ほんの少しだけ手助けをしちゃおう企画発足―」

「え?」


 目を見開く彼女に。


「このマンションの他にもペット可な処はある、当然家賃も保証金も安価な物件もね……それらをクリア出来るまで俺がこの子を預かる、ってのは?」

「……出来なかったら?」

「俺が飼うよ、責任持って……まだこの子は化けずに済んでる。愛情をもって育てればね」

「期間は?」

「それはキミが決めなよ、俺が決める事じゃない」


 暫しの間、考え。きっと顔を上げ。


「探す、この猫と暮らせるマンションッ」

「家だけじゃだめだよ、キミの覚悟も必要……この猫に誓える?」


 これは賭けだ。死に掛けの猫の執着心は強い。


「誓う、ミィ……かならず迎えに行くからね」

「はい、成立。これうちの連絡先」


 猫を片手で抱き上げ、もう片方の腕でポケットから名刺を取り出す。


「○○○製薬?樹蒼、さん?」

「ん……で、そこの香水部門に勤めているんだ、今はね…で裏に携帯番号記載してあるから……この猫に会いたかったら連絡しといで、今中学からの幼馴染と同居しているし、流石に女性が男二人の家に来るの不味いだろう?公園にミィ連れていくから、その時にデートすればいいかなって」

「で、でーと!?!?!?」

「そう、ミィとキミが」

「あ、そ……そだね」

「じゃ、決まり。出なかったら留守録に入れてて」


 満腹になって、喉をゴロゴロ言わせている猫…ミィを一撫で。


「責任もって、この猫死なせないから」

「私は遊…細田遊です、お願いします、出来るだけ早く迎えに行きますっ」


 ほぼ直角にお辞儀をして、上げた彼女の顔からはさっきの泣きそうな表情が消え、希望が見えた。


「うん、待ってるよ」



 ◇◇◇◇



「で、お前が育てるんか?ああ???」

「ごめーん、だってほっとけなかった」

「それですむなら全部の猫引き取るんかお前は」

「悪いって、悠斗……ほら、ミィもよろしくってさ」

「……こういう事は一言家主にも言えよ……全く」


 にゃおん、と満足げに答える子猫に既にやられてるらしく、浅海…悠斗は


「ほら、車出すからペットショップ行くぞ、猫用のグッズ買い出しだ」

「あ、俺らの飯は?」

「後だ、後」


 慌ただしい同居人・浅海悠斗は車のキーを片手に俺の背中を押した。


「猫用キャリー無いぞ」

「一応段ボール積んである、中の書類出しとけ」


 はいはい、と笑いながらもなんのかんのと言って人の良い同居人の車に乗り込んだ。



 ◇◇◇◇



「で、ベッドにお遊びグッズ。首輪に予防接種。良い人なんですね、同居人さん」

「俺よりミィにベタ甘な気もする」


 近所の公園にキャリーで連れてきたミィを抱っこしながら、細田さんも笑う。


「今、不動産屋さん色々回っています。私の給料とちゃんとにらめっこしながら」

「うん、表情が生き生きしているね」


 死にかけていた猫は、コロコロと太り。猫独特の可愛さを取り戻し、二つになりかけていた尻尾はすでに、普通の猫の物と変わり無かった。


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