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オススメ短編・中編

大魔王の城に行った勇者が、ひとり残らず帰ってきません。

作者: 砂礫零

なろうラジオ大賞2 千文字短編です。

「また勇者が帰ってきません」


「むむ…… これで149人目ではないか」



 勤勉な国民性で知られるミジンコ国の一番の問題。それは、諸悪の根源たる大魔王である。

 彼は絶大な魔力で街を襲い、食糧や物品を奪い人を(さら)うのだ。


 そして二番目の問題は、大魔王討伐に行った勇者がそのまま行方を(くら)ますことだった。



「このままでは国が滅びてしまう。そなた、理由を探って参れ」



 密命を受けて魔王城へ潜入した私は、とんでもない光景を見た。


 広いホールいっぱいの魔物と人が、壇上の人物の話に、熱心に聞き入っている…… あれは、149代目の勇者じゃないか。



「…… かくして、俺は悪のドラゴンから聖女を救ったのです」



 語り終えた途端、割れんばかりの拍手がホールを揺らした。


「ブラボー!」 「ひたすら、すごい!」 「胸が熱くなるぜぇっ……!」 「かっこいい! 149代目最高っ!」


 最前列中央で立ち上がり、ひときわ響く音で手を叩いているのは、あれが大魔王か…… 堂々たる体躯、溢れるような魔力、二本の角。


「感動した……!」


 目からは、滂沱(ぼうだ)の涙である。


「余は、君の話をもっと聞きたい! 戦闘はまた明日にしないか?」


「くっ…… だがしかし……!」


 煩悶する、149代目勇者。


 ―― 抗え、抗うのだ!

 魔の誘惑に屈してはならない!


 語り合うなら、勇者と魔王らしく必殺技で語り合えば良いのだ!



「闘いの果てに、どちらかが倒れてしまえば、もう君の話を聞くことはできぬのだぞ……?」


「あ、そうっすね。闘いは、いつでもできますしね」



 ―― あっさり折れた、だと……?



「嬉しいぞ、149代目! 君の次の話が楽しみだ」


 大魔王は子供のような笑みを浮かべている……!



「さて、次は…… そうだ新入り、お前はどうだ」



 ―― へ? 私?



「どんな話でもいいぞ。まずは、自己紹介でどうだ?」


 大魔王は余程、娯楽に飢えているらしい。



 ―― これも、情報収集の一環だ。



 壇上に上がる私に、スポットライトが集まった。



「えー、私はミジンコ国では名もない某ですが、実は前世の記憶があります」


 うむ。緊張するが、皆の 『おっ!?』 という感じの表情が気持ち良くもあるな。


「前世では忍者という職業で、好きな食べ物はおにぎり。これはミジンコ国にはない食材で……」



 皆が聞き入ってくれている。

 大魔王の目が、キラキラ輝いている。



「以上です」



 語り終えた私を、拍手が包み込んだ。



「うむ、面白かったぞ! 明日もぜひ……」



 ―― そうだな。


 情報を持ち帰るのは、いつでもできるしな……

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― 新着の感想 ―
[良い点] 何で消息不明? って  そーゆー事?! 浦島太郎や!行ったっきり帰って来れんやつ! 俺も行きたい! めちゃめちゃ面白かったです。 [一言] 久し振りに 短編企画の旅してました。
[良い点] 水渕成分様の割烹からきました☆ 大魔王様の策略(天然?)おもしろすぎます(≧∀≦) 自分の話を聞いてもらえると、確かに気持ちいいですよね。聴衆が目をキラキラ輝かせて、話し終わったらみんなか…
[良い点] 全然平和ではないのに平和を感じて笑ってしまいました。 魔王が策士! でも半分くらいは天然っぽそうで面白いです。
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