三年生
「ねぇねぇ、しゅーくん」
「何をそんな……って、あぁ、今日はそういえば9月1日か。優香さんがやけに機嫌良い訳だ」
「ふふー、そりゃあそうだよ。好きな日兼、私の大切なお友達の誕生日だからね。去年祝って貰った分くらいは返さないとね?」
「去年の分を返す、なんて口実が通用するのか。別に恩に思って貰えてるならそれで十分だ。何も貰わなくていいから感謝の気持ちを死ぬまで感じていて欲しいな」
「重いね。誕生日一回祝われた分の恩を最期まで引きずる人居ないよ、それ間違いなく呪いの類だしお祓いして貰った方がいいよね。ぬいぐるみは毎日一緒に寝てるから何か仕込まれていたらそりゃあ効き目はバッチリだろうし」
「……その暴露はわざと? それともドMだけじゃなくて暴露癖なんて変わった性癖まで持ってるの? 君は。今年も絶賛隣の席の僕は不安が隠せなくて反応に困ってしてしまうね」
「ふふー、勿論わざとだよ。しゅーくんから初めて貰ったぬいぐるみを抱いて毎日寝てることを伝えたらどういう反応をするのか見てみたくてね。あとそれは事実だから安心して」
「安心も何も……はぁ。僕は偶に君が実はドSなんじゃないかと疑ってしまうよ。隣の席というだけの関係の僕の反応なんて見て何が楽しいのか理解に苦しむ。赤面して机に突っ伏せばいいのか。それとも……」
「待って」
「ん?」
「しゅーくんは、私のことを『隣の席であるだけの人』だと思っているのかい?」
「……なんでそんな悲しそうな顔してるんだ。今日は優香さんの好きな楽しい楽しい9月1日だぞ、今日はもっと笑ったらどうだ?」
「答えて」
「……はぁ。語弊があるようだから訂正するけど、僕は少なくとも、優香さんみたいな人を『隣の席であるだけの人』とは捉えていないし、こうも関わってしまうとそう捉えるには無理がある。君はこれでも僕の初めての友達だからな。僕が言いたいのは、優香さんだよ」
「へ、私?」
「そう、こんな隣の席だというだけの引き篭りに一体何を血迷えばそんな事を暴露できるんだ。君は僕と違って顔だけは良いし性格だって一部……二部に目を瞑れば大衆向けだしさぞ好かれることだろう」
「人を褒める為の細胞が死滅してるとしか思えないんだけれど。一体何を褒められてるの、それとももしかして貶されてるの私」
「……結局、何が言いたいのか。それは君がどうしてこうも僕に構うのか分からないって事だ。そんな事をするメリットが僕には一切感じられない。こうも今更な話だが、お情けでやっているのなら惨めだ。頼むからやめてくれ」
「……ほんと、この鈍感最低捻くれ引き籠り拗らせニートは……」
「待って今雰囲気にそぐわないものすごい名詞が聞こえたんだけど。なんて?」
「……好きだから」
「は?」
「…………もう、だからっ! 君のことが好きだから、じゃ納得いかないのか!? 君は!!」
「……………は?」
「なに、その反応。馬鹿みたいに口をぽかーんと開けて。初めて見る反応だ、ふ、ふふー、これだけでも勇気出して告白した甲斐があったもんだね」
「な、なな……」
「一応言っておくけど、これは遊びでも酔狂でも嘘でも罰ゲームでも君の都合の良い夢でも無いよ、私の心の底からの本音だから。卑屈なしゅーくんが思いつきそうなシチュエーションだ。他に何か意見があるなら聞くけど?」
「あ、ありません……」
「うん、宜しい。それで返事は……って、まぁ気持ちの整理がつかないよね。まぁ私達ももう受験生だ、恋がどうとかに目を向けてる場合でも無いのも知ってるよ。でも、私はどうしてもしゅーくんに伝えたかった。それだけ」
「待って、待ってくれ。優香さんや。いきなりデレのオンパレードで困る。自分のやけに理屈的でドMなキャラを思い出してくれ。それと僕の夏休みの生活を弄り倒しては悪魔的に笑ってたあの日々を思い出してくれ。本当に、僕のこと好きだったのか?」
「……ほんと、鈍感で困る。ふふー、好きな子に意地悪したくなる気持ちすら分かんないんだもんなぁ、しゅーくんは」
「鈍感で悪かったな。まさか優香さんが僕のこと好きだなんて……両思いだったなんて知らなかったんだ。君はもっと格好良くて夏を謳歌してるような人間と付き合うものだと思ってた。だから、僕では釣り合わないと諦めてたんだよ」
「……はぁ、全くこれだから鈍感最低捻くれ引き籠り拗らせニートは……」
「だからそれ何っ!?」
「私が! しゅーくんを! 好きって言ってるの! それでも足りないなら私のこともっと好きになったらいいさ。私の目に映る君すら愛せるくらいに、もっともっと、メロメロになってしまうといい。他の女の子に目移りなんかしたら許さないから」
「……もう十分、二十分にぞっこんだってのに。僕には男友達すら居ないんだ。優香さんしか見ることないし……本当に、好きすぎて勉強が手につかなくて困ってたくらいだ。どうにかしてくれ、全く」
「……〜っ!!」
「何だよ、その顔……って待って僕何気に初めて君が顔赤くしたところ見たな。確かに普段の優香さんには羞恥心ってものが感じられないしね」
「帰った後、しゅーくんとの会話を思い出して、ずっと真っ赤になってたよ。……これで満足?」
「……暴露がもはやお得意芸だね」
「ふふー、しゅーくんも真っ赤だ。お揃いだね」
「うるさい、全く……」
「9月1日が好きな理由、また増えちゃったなぁ」
教室から見る蒼い空は雲一つ無く、どこまでも続いていくように広がっている。
もう9月というのに日差しはまだまだ強く、夏が僕らとの別れを惜しむように照りつける。
蝉は喧しくも弱々しく、夏の最期を告げる。
夏との別れを知らしめる。
教室のカーテンを揺らして、ふと涼やかな風が吹き抜けた。
成る程確かに。この日が、この時がとても愛おしい。そこに、夏はしっかりと居た。
そこで、しっかりと僕らを見守っていた。
2人だけの教室で、彼女はふと振り向いて、瞳に熱を帯びせて言った。
「ねぇ、大好きだよ、しゅーくん」
噛み締めて、飲み込んで、ゆっくりと返した。
「あぁ、愛してるよ、優香。きっと、彼に負けないくらい君を幸せにしてみせるよ」
「ふふー、強敵だよ?」
「だね、負けちゃうかも」
「あはは、負けないでよ。バカ」
すると、突然、教室に突風が吹き抜けてカーテンを大いにはためかせた。
僕は彼女と目を丸くして顔を見合わせ、楽しげに笑った。
おしまい。
最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございました。これにてこの物語は完結です。
もし宜しければ評価や感想などを下さると私の執筆モチベーションがぐーんぐーんと上がっていきますので、宜しくお願いします。




