二年生
距離感の違いに注目です。
「ねぇねぇ、周斗くん?」
「何、やけに嬉しそうだね、優香さん」
「全く、ダメだねぇ周斗くん。物覚えはやけに無駄にいい癖に今日、9月1日が私の好きな日だって言ったのを覚えてないのかい?」
「あぁ、そういえばそうだったね。誕生日だっけ? おめでとうまた一つ歳を取ってしまったね。老化は早いなぁ、怖い怖い」
「ちーがーう! 誕生日は11月14日だよ。全く。『良い石』で覚えてって言って……無いね。そっか。教えてないなら仕方ない。でも今年は私を祝い散らすこと、いいね?」
「げ、墓穴掘った。なるほど、これだから適当なことは言うもんじゃないと先生は教えてくれたのか。やっぱり先生の言うことはためになるな。でも先生も祝い散らすって単語は教えてはくれなかったな」
「君……先生の前でもそんな感じなのか。そりゃあ友達も出来なくて納得だ。今年の夏休みもさぞ贅沢に時間を無駄にしたんだろうね、想像に容易いよ」
「贅沢な無駄だって時には必要だよ。人は日々無駄なく生きようと心がけるからね。ふと無駄の中に散在する美しさに目を向けようとしないんだよ。君も試しに昼寝で5時間寝てみるといい。起きた時の1日を完全に無駄にした絶望感と完全に一日を無駄にしてやったという達成感に板挟みになってクセになるよ」
「うわ最低……流石周斗くんだ。今年も予想を上回る最低具合だね」
「お褒めの言葉光栄だよ。無事今年も焦げ茶色に染まっている君を見ると君も夏休みに地獄を見たみたいで安心した。僕は夏休みをそんな地獄に費やすなんて正気とは思えないな」
「ふふー、地獄とは言うけどやってみると意外と部活は楽しいもんなんだよねぇ。あと周斗くん。仮にも女の子に向かって焦げ茶色とはなんだ。焼けた色がよく似合ってるとでも言ってみたらどうだい?」
「僕は美白こそ至上だと考えてるからね。ほら見てみな僕の肌を。僕はこの白い肌を保つ為に外出しないと言っても過言ではないよ」
「わ、確かに。周斗くん肌白いね、羨ましい。私はこれでも日焼け止めとか塗って頑張ってるんだけどなぁ。……それでも引きこもる口実に美白を用いるのは目の前でこうやって頑張ってるレディーを敵に回すよ?」
「この教室のどこに『レディー』が居るんだ。淑女だぞ、淑女。僕の目の前に居るのはどこからどう見ても『ガール』だ。それとお褒めの言葉なんて僕以外から幾らでも貰ってるだろうに、クラスという大きな括りのギリギリ端くれである僕からも貰おうだなんて強欲じゃないか?」
「む。でも、私は周斗くんからの言葉が欲しいんだよ? ……な、なんて。話を戻そうか、君の誕生日はいつだったっけ?」
「……え。あ、さっきそんな話してたっけ? ま、まぁいいや。……態々隠す必要も無いから言うけど9月1日だよ。君の好きな日と被るなんて全く嬉しい限りだね。悪い意味で」
「……へ? ぷっ、あはは。そりゃあよりにもよって私に言えるはずも無いよね。ごめんねぇ。って、それじゃあ周斗くん、君私が9日1日が好きなの覚えてたって事じゃない?」
「……まぁ、無駄にやけに物覚えのいい僕はこんな日を好きだなんて言う変わり者なんて忘れたくても忘れられないよね」
「この学校のよく分かんない古めかしい風習のせいで3年丸ごと隣の席だし、やっぱりねぇ。まぁ、良いけど、私は周斗くんのこと気に入ってるし」
「……驚いた。お眼鏡に敵ったようで光栄だよ。僕のどの点を評価してくれたなんてあまり聞きたくも無いけど。ところで、何で9月1日が好きなんだったっけ」
「ふふー、よくぞ聞いてくれました。夏ってさ、どこかキラキラした、楽しくて明るい雰囲気があるじゃない? そういった雰囲気が浮き立たせた心を、ゆっくりと元の位置に戻すような、地に足立たせるような、現実に引き戻されるような、この感覚が好きなんだよ」
「なるほど、納得した。君はMなんだな」
「あれぇ、一体私の何の話を聞いてたんだい?」
「浮き立った気持ちを現実にゆっくりと引き戻す感覚、その名前は絶望感だ。要するに君は自分が絶望するのが好きなんだよ。よってMだ」
「ぐぬぬ、否定したいけどできない……何なんだろうねこの感覚。でもやっぱり私はこの軽快な絶望感を愛してるんだ。あとは、やっぱり単純に夏が好きなんだろうね、私は」
「その大好きな夏とさよならをするのが好きなのか、やっぱり君の趣味も大概だな」
「さよならっていうより……ちゃんと、見届けたいっていうか。最後までしっかりと夏を享受したいというか。でも周斗くんの言う通り、私はどちらかと言うとMだ。本能的にこの絶望感を求めているのかも知れない」
「僕は3年隣に居座ることになる同級生に性癖を大暴露されて困惑を隠せないよ。……まぁ、前半のちゃんと見届けたいという気持ちなら、分かる気もする。今年も31日はしっかりと惰眠を謳歌したし、最早恒例行事だな。今日も帰ったらしっかり今年最後の夏さんにおやすみを言おうと思うよ」
「え? ダメだよ、何言ってるの」
「……へ?」
「今日は周斗くんの誕生日なんでしょう? 放課後、何かプレゼントしてあげる」
「強いて言うなら好きに睡眠を取る権利をプレゼントして欲しいんだけど。まぁ、聞く耳持たないよね」
「ふふー、よくぞお分かりで。それじゃあまた放課後、楽しみにしておくよ」
機嫌良さげに楽しみ、と見たことの無い蕩けた笑顔で言うものだからつい動揺してしまった。
一拍置いてから「なぁに、君、見惚れてるの?」とまたいつもの様に悪戯に笑うので、僕もいつもの様に「はぁ、放課後が憂鬱だ」と悪態をついた。
自分の心拍音がやけに煩いのは、きっと蝉の鳴き声が小さくなったからだ。きっと。いや、そうに違いない。
次で完結です。ここまで読んで下さり本当にありがとうございました。良ければ最終回も読んで下さると嬉しいです。




