7.5
真夜中の路地裏。
大人ですら不気味に思う明かりの届かない暗闇に、ぼんやりと蝋燭の明かりが二つ揺れていた。
「という訳でガキは崖から川に落ちた。荷物も奪ったし、仮に助かったとしても貴族のガキ一人じゃ生きてくのは難しいだろうな。死ぬほど怖がらせたのは確かだ」
「そう。充分だわ、これは報酬よ」
一人は男で一人は女のようだ。
チャリ、と音がして女が手のひらに乗るほどの袋を差し出した。
「待ってました、と言いたいところだが殺せって依頼だったろ。良いのか?」
「えぇ、あの子の使い道を新しく思い付いたから。分かってると思うけどこの事は他言無用よ」
「支払いをきっちりしてくれる相手の不利になるような事は口外しねぇよ」
「それじゃまた何かあったら頼むわよ」
「あぁ、その時は呼んでくれ」
蝋燭の明かりが一つコツコツという靴音と共に離れていく。
やがて暗がりから男が現れ、袋を大事そうに懐にしまうと上機嫌で夜の街に消えていった。
残った蝋燭の明かりが女の口許をぼうっと照らす。
「……これで『悪役令嬢』の役割から逃れたつもりでしょうけど、まだ逃がしてあげられないの。私が幸せになるために」
この場に居ない人物に向け言葉を紡ぐと、女は口許に笑みを浮かべ蝋燭の明かりを吹き消した。