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村娘になった悪役令嬢  作者: 枝豆@敦騎
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手当てが終わり包帯に腕をぐるぐる巻きにされ、痛み止めが効く頃にはすっかり日が暮れていた。

久しぶりに家に帰り自分の部屋のベッドに横たわる。

ソニアさんとお父さんがずっとついて世話を焼いてくれたことで帰ってこれたんだと実感する。

しかし痛みも引いて余裕が出てくると気になるのはジークさんの無事と怪我の治療代。

ジークさんについては怪我ひとつなく無事らしく今は国王と話をしているらしい。

そして確認してもらったところ治療代は国王が個人で負担してくれるとか。国王は私が思うよりやさしい人なのかもしれない。





翌日、ジークさんを連れた国王が私の家を訪ねて来た。


「まずは礼を言わせてくれ。暗殺集団捕縛への協力と弟の命を守ってくれたこと感謝する」


一国の王様に頭を下げられ、私だけでなく付き添ってくれていたお父さんやソニアさんまでぎょっとしている。


「まさかジークが国王様の弟だとは……っ、失礼しました」


呆然と呟いたお父さんは慌てて言葉を直しジークさんに頭を下げる。

するとジークさんは悲しげに目を伏せた。


「顔を上げてくださいウォルトさん。今の俺はただの一般人です、王位継承権と一緒に王族であることも捨ててきましたから」

「弟もこう言っている。どうか態度を変えないでやってくれないか」


ジークさんを援護するように国王に告げられお父さんは戸惑いながらも頷いた。


「それから暗殺集団は一人残らず捕縛した。奴らと繋がっていた公爵家の侍女も捕らえてある」


リエナのことだ。


「あの……その侍女と話すことはできますか?」


私の知っているリエナは優しくて少し涙腺の弱い普通の女性だった。

そんな彼女がどうしてジークさんの命を狙い、私を犯人に仕立てようとしたのか知りたい。


「あぁ、構わない」

「スザンナだけでは心配だ、怪我のこともあるし俺も同行する」


国王が頷く横でジークさんが名乗りをあげてくれたので、私はジークさんと一緒にリエナの捕らわれている街の収監所に向かうことになった。






その後、家を出発し国王の手配してくれた馬車で街まで向かう。

村には暗殺集団を収監出来る場所がないので彼らはこの街に収監されている。

国王は看守に話を通してくれたらしく私達はすんなりとリエナの捕らわれている牢屋に案内された。

そこは想像していた通りの牢屋だった。

石造りの壁と床で囲われ、鉄格子で区切られた狭い空間。その真ん中にリエナは侍女服のままで座り込んでいた。


「リエナ」


私が声をかけるとリエナはぱっと顔を上げて眉を下げ泣き出す。


「スザンナお嬢様!あぁ、来てくださったのですね……!誤解なんです……逆らうとマリーナお嬢様を殺すと言われてっ……それで仕方なく」

「仕方なくジークさんの命を狙って私に罪を擦り付けるつもりだった、と?」

「はい……本当に申し訳ありませんっ……でも仕方なかったんです!私一人では助けを求めることもできなくて……」

「そんな嘘、つかなくて良いのよ」


リエナの言葉を遮りそう告げると彼女はポロポロと涙を流した。


「そんな……嘘だなんてっ……」

「私、知ってるの。あなたが暗殺集団の頭領と手を組んでいたこと。あなた達が捕まえた私の様子を見に来た時、全部聞かせてもらったわ。だからあなたに騙されることはもう二度とない」


淡々とそう言いながらも心のどこかではリエナを信じたかった。

彼女は本当に暗殺集団に脅されていて仕方なく私を誘拐し、演技をしてやつらを騙して逃がしてくれるつもりだったのではないかと、どこかで期待している自分がいる。

けれどリエナは数度目を瞬かせた後、口許を緩めて私の期待を粉々に打ち砕いた。


「なーんだ、バレてたの。それじゃあもう言い逃れできないじゃない」


先程まで流していた涙を引っ込め諦めたように肩を竦める。


「……何のためにジークさんの命を狙ったの」


問い掛ければリエナは私の隣にいたジークさんをちらりと見て口の端をにいっとつり上げた。


「もちろん、私のためよ。そこのジーク様とマリーナお嬢様が結婚すれば私はマリーナお嬢様付きの侍女としてお城で働けるもの。そうすれば公爵家で働くより何倍もの収入が得られるわ」


眉を寄せた私の代わりに口を開いたのはジークさんだ。


「……悪いが俺はもう王族ではない。それにスザンナの妹とどうこうなるつもりもないしな」

「そうなのよねぇ。ゲームではあなたはマリーナお嬢様とハッピーエンドを迎えてお城に戻るはずだったのに……ねぇ、マリーナお嬢様はどこで選択肢を間違えたのかしら?せっかく私が色々お膳立てしてあげたのに骨折り損のくたびれ儲けだわ」

「……何をいっている?」


肩を竦めるリエナにジークさんは眉を寄せるが私は無意識に自分の手を握りしめていた。


ゲームとかハッピーエンドとか選択肢という言葉がリエナから出てくるということは彼女は私と同じ転生者なのだろうか。


(まさかこんな近くにいたなんて……)


驚く私を見てリエナはくすくすと笑いだす。


「そんなに驚いてどうしたの?あぁ、選択肢を間違えたのはスザンナお嬢様だったのかしら。マリーナお嬢様を怨ませようと画策したのに全然行動を起こさないのだもの。あなた本当に悪役なの?それともバグ?あぁ、もしかして転生者なのかしら?でもまあ、なんでもいいわ、もう私の登場シーンはおしまいみたいだから全部話してあげる」


言葉を返せずにいる私を見たリエナは楽しげに今までのことを語りだした。



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