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村の近くについた私達は暗殺集団を包囲するために作戦を立てることにした。
ここで活躍したのはニトだ。
彼はこの件が片付いたら協力した褒美に騎士団の見習いとして働くと国王と約束を取り付けたようだ。ニトはその辺りしっかりしている。
「俺が聞いてる話によると村の中じゃ目撃される可能性が高いから村から外れた湖の辺りで作戦を決行するって話だ」
騎士の一人が広げた地図を見て、ニトが暗殺者の配置される場所をひとつずつ指差していく。
「こことここ、それからこっちに配置されるヤツらは手練れだから注意して。それから頭領は全体を見て動くためにここにいると思う。残りは雑魚だから力で押し切れるはずだ」
示された場所全てに印を付けてから国王は目を細めてニトをじっと見つめた。
「……子供の癖にずいぶんいろんな事を聞かされているんだな」
確かにニトは暗殺集団の情報を知りすぎている。
幼い子供とはいえ彼らがそこまでの情報を与えるだろうか。
国王もそこが気になったのだろう。
ニトは国王の探るような眼差しを受け止めながら肩を竦めた。
「疑いたいなら好きにすればいい。けど王様を敵に回してあいつらの肩を持つなんて俺にとっては不利益にしかならないからな」
「……そうか」
ニトの言葉に納得したのか国王はひとつ頷くと回りにいる騎士達に指示を出し暗殺集団を捕縛するために動き出した。
騎士達がそれぞれ持ち場につくのを確認した国王はこちらに向き直ると「それで」と口を開いた。
「娘、お前の望む褒美はなんだ?」
予想外の言葉に即答できずに居ると国王は私の隣にいたニトを指差す。
「そこの子供のように望みがあるのではないのか?財産か、名誉か、それとも王族に取り入ることか?」
こちらを試すような言い方に少しだけイラっとしてしまったが相手は国王。これが普通なのだろう。
もし乙女ゲームのヒロイン、マリーナなら無欲に「ジークハルト様がご無事なら私はなにも要りません」と告げるところかもしれない。実際にジークさんが無事であるならそれでいいと思う気持ちもある。
だけど私はそうじゃない。
「ジークハルト様の自由と私の身の安全を保証してください。ご覧の通り私はただの村娘、今後何かしらの形で公爵家に睨まれて平穏な生活を脅かされては敵いませんから」
「……ほう。自分の身の安全を求めるのはまだわかる、なぜジークハルトの自由をお前が望む?あいつは元から自由だろう」
確かに今のジークさんは自由気ままに旅をしている。
けれど今回の事を理由に国王は王族として城に戻る事を命じるだろう。王位継承権が無いとしてもジークさんは国王の身内という事で今後も命を狙われるかもしれない。その場合、どこかをふらふらされるより城や国王の目の届く範囲に居た方が守りやすい。
だから今回のことが終息したらこの国王は間違いなくジークさんを連れ戻そうとする。
それはきっとジークさんにとって幸せなことではない。
彼の事を全て知ってる訳じゃないけど、ジークさんが村の人達と生活する中でどんなに楽しそうな笑顔を見せるか私は知っている。
ジークさんが笑顔になれる場所を取り上げて欲しくない。
(……違う、それは建前だ)
ジークさんの為に、と思って口にしたがよく考えてみればそれだけではない。
私がジークさんの自由を求めるのは彼がこのまま国王の元に戻ってしまえばもう会えなくなるからだという事に気がついてしまった。
(ジークさんの為に、なんていいながら結局は自分の為だなんて……やっぱり私はどこかで悪者なのかもね)
「私がジークハルト様から離れたくないからです」
自嘲しながらそう答えた私に国王は小さく「そうか」と呟く。
そして無表情だった顔に薄く笑みを浮かべこう告げた。
「娘、そこまでジークハルトに入れあげるならお前が囮になれ」




