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村娘になった悪役令嬢  作者: 枝豆@敦騎
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目が覚めると辺りは薄暗かった。

そんなに遅くまで寝てしまったのだろうか、リエナが起こしてくれると言ったけれど帰ってしまったのかもしれない。

よく寝たお陰か頭はすっきりしている。

起き上がろうとした私は違和感に気付いた。

小屋のベッドに横になっていたはずなのにいつの間にか私の体は硬い木の床の上に横たえられている。


(……ここはどこ?)


次第に暗闇に目が慣れてくると自分が見知らぬ部屋にいるのが分かった。

部屋の中には足の壊れた椅子がひとつとぼろぼろの布が置いてある。

どう見てもさっきまで寝ていたはずのきこり小屋ではない。

両腕は粗い縄で縛られているのが見えた。両足も同じ様に縛られているようで上手く動けないしチクチクして地味に痛い。


(もしかして誘拐された、とか……)


自分の状況を見る限りそうとしか思えない。

これからどうなるのかという不安と恐怖に泣きたくなるけれど唇を強く噛んで耐える。

こういう時はまず自分を落ち着かせるのが大事だとお父さんから教わった。

焦ったりすると見えるものが見えなくなり、解決の糸口を見つけられなくなる。だからまずは落ち着いて現状を把握することが大事なのだ。

ゆっくり深呼吸して自分を落ち着かせるともう一度辺りを見回した。

寝かされていた正面にドアがあり振り返ってみれば私の真後ろには窓がついている。窓から差し込む頼りない月明かりが部屋を照らしていた。

幸いなことに腕は正面で縛られていた為、床に手をついて何とか起き上がる事が出来た。

窓から外を伺ってみると私がいるのは建物の二階らしく、ぐるりと木々で囲まれた先に街の灯りが見えた。

街の灯りが見えると言うことは村からもそう遠く離れていないだろう。

何の目的で誰が自分をこんなところに連れてきたのか分からないが、相手が善人でないことは確かだろう。


(……とにかく手足の縄をなんとかして逃げないと)


手首を縛る縄をほどこうと結び目に噛み付いた時、部屋の外から誰かが歩いてくる足音が聞こえてきた。

私は咄嗟に転がされていた場所に横になると寝たフリをする。私が起きていて逃げようとしていることがバレたら何をされるか分からない。

目を閉じて暫くすると足音は私のいる部屋の前で止まった。そして軋んだ音と共にドアが開き誰かが入ってくる。


「なあ、まだ生かしておくのか?どうせ殺すなら今だっていいだろ」


野太い男の声だ。

私を誘拐した犯人なのだろうか。


「……まだよ、まだ駄目。事が済んでからならいくらでも好きにしていいわ。今殺してしまうとこれから起こる事の犯人に出来ないじゃない」


続いて聞こえてきた声に体が強張った。

私はこの声の主を知っている。

愕然とする私に気が付くことなく男女は会話を続ける。


「それにしてもお貴族様と放浪者とはいえ王族の命を狙うなんて大したこと考えるよなアンタ。前みたいなガキの殺害依頼と同じ報酬じゃ割りに合わねぇ、捕まったら即処刑じゃねぇか」

「馬鹿ね、だから捕まらない為にこれを誘拐してきたんでしょ。犯人はこれ一人よ。それに成功したらあの時の十倍は出すわ」

「十倍……!?へへ、そうこなくっちゃな。んじゃ早速作戦会議といきますか。おい、お前、こいつが逃げないようにしっかり見張っとけよ」

「はい」


男女の他にもう一人誰かいるようだ。

声からして子供だろうか。

ドアが閉まり足音が遠ざかっていくのを待って私はそっと目を開けた。


「……あ、起きた?」


てっきり誰もいないと思っていたのに声を掛けられびくりと肩が跳ねる。顔を上げると正面に一人の少年がいた。

ボサボサの黒髪で片目を隠した十歳くらいの男の子だ。

思わず後退ると少年はドアを背凭れにどかりと座った。


「逃げない限りなにもしないよ、頭領にもまだ殺すなって言われてるし」


そういうと少年はナイフと木材の欠片を取り出して何か彫り始めた。


「……あの」

「俺に取り入ろうったって無駄だよ。アンタを逃がしたら俺が頭領に殺される」


子供相手ならあわよくば言いくるめられるかもと思ったけれど無駄だったようだ。

けれど諦めるわけにはいかない。

ここにいるとこれから行われる犯罪の犯人にされてしまう。

しかも男と一緒にいた女の声。

あれはリエナのものだった。

私はきこり小屋を訪れたリエナによって拐われたのだ。彼女が犯罪を犯そうとしていることにも驚いた。

公爵家で優しくしてくれたリエナ、村に来て再会してからも私の味方になってくれたリエナ。

何故、どうして彼女がこんな事をするのか。


(あの男が言っていた放浪者の王族ってジークさんの事よね……まさかリエナはジークさんの命を狙ってる?)


まるで乙女ゲームのスザンナの様だ。

しかもその罪を私に擦り付けようとしている。


(そんなの絶対許せない)


私の中では今までずっと信じてきたリエナに裏切られたショックよりジークさんの命を狙い、その罪を私に擦り付けようとしていることに対しての怒りの方が勝っていた。


(なんとかしてここを出ないと!)


私は目の前の少年をまっすぐに見つめると口を開いた。


「ねぇ、取引しない?」



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