10.5
村外れの森をアルトは不貞腐れた顔で歩いていた。
何もかも気にくわない。
いつも構ってくれる隣人のウォルトがあまり構ってくれなくなったのも、いつの間にか元貴族の女の子が店の手伝いをしていたことも、母親がその子を可愛がっていることも。
いくら『悪い貴族かもしれない、今に騙されて何もかも奪われる』と訴えても大人だけじゃなく村の子供達まで信じてくれないのだ。
「あんなやつ、来なきゃよかったのに……」
「あんなやつって誰のこと?」
「誰だ!?」
自分一人だと思っていたのに知らない声が聞こえたことに驚き、振り返る。そこにはこげ茶色の地味なマントを着て目深にフードを被った人物がいた。
「お前に関係ないだろ!」
「そうなんだけど、ちょっと気になっちゃって」
いかにも怪しい見た目なのに鈴のように綺麗な声をしている。背丈や声の感じからして性別は女のようだ。
「最近、我儘で平民の子を苛めるような貴族の子がこの辺りで捨てられたって聞いたからもしかしてその子かなって思ったんだけど」
「貴族の子……?」
アルトの脳裏に浮かぶのはスザンナの姿だ。
「あいつ、やっぱり最低なやつだったんだな!」
「知ってるんだね、よかったら聞かせてくれないかな?」
村では話をまともに取り合ってくれる人がいなかったというのもあり、怪しいと思いながらもアルトはスザンナの事を話した。
するとその人物はアルトの事を応援してくれた。
「その子はきっと悪いやつなんだね、村から追い出さないと大変なことになるわ。その子を追い出せばあなたは村を守った英雄になれるかもね」
その言葉にアルトは「あんなやつ俺がやっつけてやる!」と意気込んで村に戻っていった。その瞳はスザンナを倒すことしか考えておらず回りが見えていない。
「もっともっと酷い目に遭って恨んでくれないと、フラグが立たなくなっちゃうものね」
彼を見送った人物が呟いたその言葉は当然ながらアルトには届かなかった。




