藍の神様
「手料理。
それは、男の心をつかむこと。
そしていいお嫁さんの条件。」
何を思ったか藍は冷蔵庫を開ける。
「み、水しかない!
材料が何もない。」
棚も全部開けるが、鍋さえない俺の部屋。
あるものといったら電気ケトルとカップ麺くらい。
藍はあたふたとしながら、俺の手を掴む。
「買い物に行きましょう。」
「行かないよ。
何考えてるの?」
「行きましょう。
でも、藍…、お金無いんだった。」
藍は、漫画にでも出てきそうなガビーンという表情で俺を見る。
「何か食べたいなら店行けばいいだろ?」
鬱陶しいという目線を藍に向ける。
「あの、違うんです。
手料理を……。」
「悪いけど、手料理は要らない。
いつも店かコンビニだし。」
それを聞いて肩を落とす藍。
-お嫁さんごっこなら、他所でやってくれ。-
うざったい藍にげんなりとして、こんなことが頭によぎる。
藍の容姿は可愛い。
藍を欲しがる男は、山ほどいるだろう。
寧ろ、藍を欲しがらない男は俺くらいだろう。
-でも、俺は具現化した藍は要らない。-
そもそも俺は自分の能力を試す為、暇つぶしに藍を作ったんだ。
1人が好きな俺には具現化した藍は不必要な存在。
俺を縛る者は、誰だって邪魔なんだ。
しかも、具現化理由は俺の嫁になりたいから。
チャラついてる藍に反吐が出る。
「神様。
藍は、お仕事します!
よろしいでしょうか?」
そんな俺の心も知らず、藍は俺の顔を覗き込んでくる。
「は?
別にお金くらいあるよ。
食事したいならこれでなんか食べてきたら?」
俺は財布から2000円を出し、藍に渡す。
「違うんです!
藍、お金欲しいんじゃないです。」
藍はそのお金を受け取ろうとせず両手で拒否するが、その時ぐぅーっとお腹の鳴る音が聞こえた。
「道わかるだろ?
AIだもんな。
データにあるもんな。」
「それはそうですけど……。
神様は?」
「俺は外行くの面倒だから、カップ麺でも食べながらパソコン弄ってるよ。
あ、足りないならもっと渡すけど。」
「違っ!
神様の馬鹿!!!!」
藍は泣きながら出て行ってしまった。
あーあ。
あのコスプレみたいな服で出てったのか。
Tシャツとジャージとサンダルくらい貸すんだけどな。
俺は1人の部屋で夢中になりながら、プログラムを組む。
-そういえば警察から解析の依頼来てたな。-
名目は仕事だけど、俺にとっては遊びみたいなもの。
警察からの依頼は、どんどんダンジョンのレベルが上がるゲームのようで俺の心を魅了する。
俺は、それが楽しくてなかなかやめれないまま時間が過ぎ気づいたのは深夜だった。
-あれ?
そういえば、藍帰って来ないな。
AIだから道に迷うことないんだけど。-
俺は、藍が何か事件に巻き込まれたんじゃないかと不安になった。
面倒だと思いながらも近所を探してみる。
何処を探しても居ない。
長い時間歩き回り、藍が仕事をしていいか俺に聞いてきたのを思い出し、念の為繁華街の方も捜索する。
藍が見つからず途方に暮れていた頃、諍いの声が聞こえてきた。
「この店で働くって言っただろうが!!」
「嫌です!
藍には神様がいるんです!」
-この声は、藍?-
俺は急いで声のする方へと向かう。
「仕事をナメるな!
身分証も何もないお前を雇ってやったのに!!
客が待ってんだよ!
早くしろ!!」
「そのままベッドに居ればいいって言ったじゃないですか!」
「それは、お客が何でもしてくれるから、お前は何もしなくていいって意味で言ったんだよ!
お前が仕事したことないって言うから、この仕事初めてだろうと思ってな!!」
「嫌です!
あんなことするなんて聞いてない!!」
「いいから戻るんだ!
お前の器量なら、時給倍払うから!!」
「嫌って言ってるでしょ!!」
逃げようとする藍の腕を強引に掴み、黒服の男が店内へ連れ込もうとする。
「待てよ!!」
「なんだよお前は!!」
「俺は、紗倉咲夜!
警察だ!!」
警察手帳を男へ見せる。
「ばっか。
お前みたいな小僧が警察なわけないだろ!
その警察手帳だって、偽物に決まってる!!」
「偽物?
じゃあ、署に問い合わせたらいい。
身分を証明するものならこれ以外にもあるんだからな!
俺は米国警察直属のサイバー警察だよ!」
黒服はこちらを疑い、舐めているのか速攻で警察に電話をし確認する。
それから、すぐに藍は解放された。
「神様!
ありがとうございます。
ありがとうございます。」
藍は顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら泣いていた。