表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/16

第5話 心に刻むもの ―12月25日の花火―(中編)

 私とゆうちゃんと、村田。それと笹原隆太。


1年と少し前の4月 ― 中学の入学式 ― までは、何の繋がりもなかった4人。


 笹原のことは、”妻夫木 聡”似のイケメンなのに超変人って噂で、私も少しは気になっていた。


 反対に、見かけも成績もぱっとしない村田のことは、空気みたいに感じてた。

 ゆうちゃんが”うそ告”のターゲットにしなければ、一生、話なんてしなかったかも。


 それが、中学2年になって、年末には一緒にクリスマス会をしてるんだから、時間って不思議だ。


 ゆうちゃんと、村田が歌い、私は聞き、笹原は食事メニューを見尽くしたのか、コタツに首まで潜り込んで微動だにしない。


 ……もしかして、寝てる?


 2曲目を終わった村田が、3曲目にとりかかろうとした時、カラオケボックスのドアホンが鳴った。


「おっ、隆太がお待ちかねの”給食”が、また来たみたいだ」

 

 思わず、ゆうちゃんと、目と目で笑みを交わす。だって、これで、音の外れた村田の歌を聞かずに済むもん。


 カラオケの選曲を待つ間のインターバル曲が、スピーカーから流れてくる。



On the first day of Christmas my good friends sent to me ♪


(クリスマスの最初の日に、私の仲の良い友達がくれたもの)


One song and One Christmas tree.


(一つの歌と一本のクリスマスツリー)



 明るい曲調の英語の歌が始まった時、ゆうちゃんが突然、声をあげた。


「あっ、『クリスマスの十二日間』だ! 私、この曲、好き! 一日毎に、友達からもらうプレゼントの数が増えて、最後の十二日目には、プレゼントが12個になるの」


 その時、笹原がもぞもぞとコタツから起き上がってきた。


プレゼントが増えるって会話に反応した? ……いや、食い意地ははってるけど、こいつは物欲は少ないはずだ。



On the second day of Christmas my good friends sent to me ♪


(クリスマスの二日目に、私の仲の良い友達がくれたもの)


Two chock-a- block full candy cans


(二つのぎっしり詰まったキャンディの缶詰)



 予想通り、笹原は歌なんてそっちのけで、フライドポテトの皿に手を伸ばした。


 村田に向かって満面の笑みを浮かべる彼。その端正な顔を男に向けてどうすんのよ。


 村田の悪声にも、笹原の奇行にも、私よりは寛大なゆうちゃんは、そんなことには無頓着な様子で言う。


「美夏ちゃん、『クリスマスの十二日間』の歌詞にも色々あって、十二日目にプレゼントを持ってきてくれるのは、” my true love”ってバージョンがあるのを知ってる?」


「” my true love”?」


「私の”本当の恋人”! って意味。良いなぁ。大好きな恋人が、クリスマスの十二日間の最後の日に、持ってきてくれるプレゼント!」


 本当の恋人かぁ。


 私の脳裏に、今年の夏の苦い思いが蘇ってきた。


 あれは、晴天の青い空に、真っ白な入道雲が仁王立ちした、暑い日だった。


 意を決して、告白したテニス部の先輩への恋心。


 そして、玉砕。


 告白が上手くいったら、先輩と二人で夏祭りの花火を見に行こうだなんて。


 勝手に自分本位な夢を見ていた。


 何だか泣きそうになる。


「桃缶だな」


 その時、不意に口を開いた笹原隆太。


「やっぱり、十二日間の最後の日にもらう有難いプレゼントは、”桃缶”だと、俺は思うけどな~」


 今日は寒いよな。とても寒いよな。


 心の中を覗かれた気がした。どきりとした目を笹原に向ける。

 そして、私は思い出した。

 

 寒い冬の校舎の屋上。”うそ告”の仲直りで、笹原がリュックから出してきた桃缶をみんなで食べたこと。


 石井美夏と、ゆうちゃんと、村田と、笹原隆太が


 その日に、友だちになったこと。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
この小説を気に入ってもらえたら、クリックお願いします
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ