第5話 心に刻むもの ―12月25日の花火―(中編)
私とゆうちゃんと、村田。それと笹原隆太。
1年と少し前の4月 ― 中学の入学式 ― までは、何の繋がりもなかった4人。
笹原のことは、”妻夫木 聡”似のイケメンなのに超変人って噂で、私も少しは気になっていた。
反対に、見かけも成績もぱっとしない村田のことは、空気みたいに感じてた。
ゆうちゃんが”うそ告”のターゲットにしなければ、一生、話なんてしなかったかも。
それが、中学2年になって、年末には一緒にクリスマス会をしてるんだから、時間って不思議だ。
ゆうちゃんと、村田が歌い、私は聞き、笹原は食事メニューを見尽くしたのか、コタツに首まで潜り込んで微動だにしない。
……もしかして、寝てる?
2曲目を終わった村田が、3曲目にとりかかろうとした時、カラオケボックスのドアホンが鳴った。
「おっ、隆太がお待ちかねの”給食”が、また来たみたいだ」
思わず、ゆうちゃんと、目と目で笑みを交わす。だって、これで、音の外れた村田の歌を聞かずに済むもん。
カラオケの選曲を待つ間のインターバル曲が、スピーカーから流れてくる。
On the first day of Christmas my good friends sent to me ♪
(クリスマスの最初の日に、私の仲の良い友達がくれたもの)
One song and One Christmas tree.
(一つの歌と一本のクリスマスツリー)
明るい曲調の英語の歌が始まった時、ゆうちゃんが突然、声をあげた。
「あっ、『クリスマスの十二日間』だ! 私、この曲、好き! 一日毎に、友達からもらうプレゼントの数が増えて、最後の十二日目には、プレゼントが12個になるの」
その時、笹原がもぞもぞとコタツから起き上がってきた。
プレゼントが増えるって会話に反応した? ……いや、食い意地ははってるけど、こいつは物欲は少ないはずだ。
On the second day of Christmas my good friends sent to me ♪
(クリスマスの二日目に、私の仲の良い友達がくれたもの)
Two chock-a- block full candy cans
(二つのぎっしり詰まったキャンディの缶詰)
予想通り、笹原は歌なんてそっちのけで、フライドポテトの皿に手を伸ばした。
村田に向かって満面の笑みを浮かべる彼。その端正な顔を男に向けてどうすんのよ。
村田の悪声にも、笹原の奇行にも、私よりは寛大なゆうちゃんは、そんなことには無頓着な様子で言う。
「美夏ちゃん、『クリスマスの十二日間』の歌詞にも色々あって、十二日目にプレゼントを持ってきてくれるのは、” my true love”ってバージョンがあるのを知ってる?」
「” my true love”?」
「私の”本当の恋人”! って意味。良いなぁ。大好きな恋人が、クリスマスの十二日間の最後の日に、持ってきてくれるプレゼント!」
本当の恋人かぁ。
私の脳裏に、今年の夏の苦い思いが蘇ってきた。
あれは、晴天の青い空に、真っ白な入道雲が仁王立ちした、暑い日だった。
意を決して、告白したテニス部の先輩への恋心。
そして、玉砕。
告白が上手くいったら、先輩と二人で夏祭りの花火を見に行こうだなんて。
勝手に自分本位な夢を見ていた。
何だか泣きそうになる。
「桃缶だな」
その時、不意に口を開いた笹原隆太。
「やっぱり、十二日間の最後の日にもらう有難いプレゼントは、”桃缶”だと、俺は思うけどな~」
今日は寒いよな。とても寒いよな。
心の中を覗かれた気がした。どきりとした目を笹原に向ける。
そして、私は思い出した。
寒い冬の校舎の屋上。”うそ告”の仲直りで、笹原がリュックから出してきた桃缶をみんなで食べたこと。
石井美夏と、ゆうちゃんと、村田と、笹原隆太が
その日に、友だちになったこと。