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第5話 心に刻むもの ―12月25日の花火―(前編)

 今日は、12月25日 

 

「よっしゃぁ! 課題、終わりっ、カラオケやるぞー!」


 クラスメートの村田が狂喜乱舞の声をあげた。相変わらず無神経なやつだ。あんたが期末試験で赤点なんて取るもんだから、せっかく計画した”クリスマス会”の前に”勉強会”をやる羽目になったじゃないの。


「でも、美夏ちゃん、カラオケ店でクリスマス会なんて、担任の山下にバレたらマズいんじゃないの」


「平気~。ここって、午後6時までなら中学生だけでもOKな店。それに、山下って今日からいないし。谷川岳だって。雪山なんてよく行く気になるもんだわ。死ぬよ、絶対に死ぬ」


「大丈夫かも。あいつ、体力オバケだもん。体育の先生も体力じゃ敵わないって」

 

 そう言われてみれば、そうかもしれない。最近、産休の担任の代わりに来た臨時の教師は、休みの度に登山ばっかりやっている変わり者だ。


「まぁ、私たちは、あったかい部屋でぬくぬく遊んでる方が幸せだけどねー」


 最近、駅前にできたカラオケ店は、コタツ部屋があって、カラオケというより、みんなの憩いの場みたいになってしまっている。

 クリスマス会のメンバーは二年一組のクラスメートの四人。私、石井美夏と親友のゆうちゃんと、


 他に男子が二人 。それは、


 ― どうでもいい村田と、つかみどころがない笹原ささはら隆太りゅうた  ― 。


 コタツ布団に肩まで埋もれながら、ゆうちゃんは、リモコンで楽曲メニューを検索しはじめた。私はその斜めで、彼女と同じポーズでコタツに潜り、別のメニューに没頭している男子ささはらに目を向けた。


 この顔だけはいい”変人”のクラスメートが、カラオケ店でのクリスマス会に参加するとは思わなかった。


 笹原隆太の嫌いなものは、”学校活動”


 クリスマス会も、笹原にとっては学校活動の一部だと思っていた。けれども、私の懸念は、この部屋に入って、すぐにどこかに消えてしまった。


 笹原隆太の好きなものは、”学校給食”


「あっ、カニコロッケトマトソースかけ、これ美味そう。こっちの揚げチキン南蛮も捨てがたい。これが一皿350円なのか! 俺、迷う~」


 幸せそうに”お食事メニュー”に見入る彼。納得だ。笹原にとっては、カラオケ店での食事も”学校給食”の一部なのだ。


「それはそうと、笹原、冬休みなのに、何で今日も学ラン姿なのよ」


「俺の持っている服じゃ、学ランが一番あったかいし」


「はあ? 」


 相変わらず、わけの分からない奴。


 授業中にツナ缶、食べてたり、午前中で家に帰ってしまったり、校外学習中に突然、姿が見えなくなったり、臨時の担任に変に気に入られてたり……だが、こんなことには、もう慣れてしまった。


 カラオケの選曲に没頭していた、ゆうちゃんが声をあげた。 


「みんなっ、せっかくのクリスマス会なんだし、この日に合った曲を歌うっていうのはどう?  ってことで、私はCHRISTMAS ……」


 その時、村田が、ゆうちゃんを押しのけてマイク片手に立ち上がった。


「一番は俺、俺っ! 村田が行きま~す。矢沢永吉!『LAST CHRISTMAS EVE』」


「うわっ、先越された! おまけに永ちゃん?! 村田がぁ」


 村田の永ちゃんは酷い。センスのない奴のスローバラードなんて聞けたもんじゃない。

 かくいう私、石井美夏も、歌はそんなに得意じゃない。ただ、仲の良い友人たちと、わいわいがやがやと遊ぶことは好きだ。とくに、今日みたいに少し浮かれていても許されそうなお祭りの日(クリスマス)は。


その時、私の心はまた、浮世離れしたクラスメートに向いた。


「ねえ、笹原は何、歌う?」


「え? だからカニクリームコロッケだって」


「もうっ、違うっ、食べ物の話 じゃなくって、カラオケで歌う歌! クリスマスソング!」


「……」


 一瞬、沈黙してから、笹原隆太は、眉目秀麗な顔をこちらに向けて言った。


「俺、クリスマスソングなんて知らない。だいたい、クリスマスって何?」


 ……案の定だ。やっぱり、こいつは”超浮世離れ”男だ。


 予想が当たりすぎて、呆れるばかりだ。


 その時、ノックの音と同時に、カラオケボックスの扉が開いた。香ばしい揚げ物の匂いと共に、店員が運んできた、笹原の”給食”


「お待ちどおさま。カニクリームコロッケです」


「おっ、旨そう! 何だかよくわからないけど、クリスマスって最高の日だなっ!」


 喜々として、カニクリームコロッケの皿を出迎える笹原の笑顔は、ものすごく蠱惑的だった。けどね……こいつの興味って、いつも食べ物だけ。


 少しだけ、ムカつく。


 はいはい、そうですか。

 いいのよ。みんなで楽しく過ごすのが、クリスマスって日なんだから。


 私は、村田を脇に押しのけて、マイクを手に取った。

 

「ゆうちゃん、歌おう。ももいろクローバーzでも、きゃりぱみゅでも、今なら、私、何でもいけそう!」


 

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