小山結翔
初めて君を見て思い出したのは、幼い日の初恋の記憶だった。
「酒井くん、好きです!俺と付き合って!!」
「はー。何度言われても無理なものは無理。」
「またやってるぜー!」
「ホンット小山は懲りないよなー。」
俺は小山結翔。ここ灑樺学園に通う高校2年生だ。そんな僕の好きな人は、この学園で副会長をしている酒井利人くん!入学式で学年代表の挨拶をしているのを見て、一目惚れした。あ、この学園は男子校だけど、男子同士の恋愛が普通なのだ!
『酒井くん、一目惚れしました!俺と付き合って!!』
『…一目惚れ、ねぇ…。…絶対君とは無理だ。』
それから俺は毎日のように酒井くんに告白し、振られるという日々を続けていた。その結果、学園の名物のようになってしまった。不本意だ。
「ゆいくんはふくかいちょーのどこが好きなの?」
「どこって、全部に決まってんだろ!背が高いとこも、黒縁眼鏡も、精悍な顔立ちも、スラッとした身体も、クールで人を寄せ付けないとこも、休み時間はずっと勉強してるとこも、最近頭痛に悩まされてるのも、俺には冷たいとこも、俺に向けてくるゴミを見るような目も、ほかにも全部、ぜーんぶ好き!」
本当はもう1個あるけど。
「はあ。…ゆいくんは変態のドMさんだったのね?」
「ち、違う!」
今俺が話してるのは久住恋。同じクラスで、生徒会で会計をしている。生まれるまで親が女の子だと思っていたらしく、そのまま付けられたら女子のような名前は、彼の女子のような容姿によく似合っている。今では学園のアイドルとして持て囃されている。いるのだが。
「うーん、でもなんでふくかいちょーはこんなにもゆいくんのこと嫌いなんだろ?」
「うっ…、それ他人に言われると結構来るな…。」
「は?事実を言って何がわるいの?」
…そう、恋はその容姿とは裏腹に、なかなかにお口が悪いのだ。もっと言うとドSだ。恋曰く、『みんな僕のこと彼女?にしたがるけどさ、僕、ふつーに男だし。なるなら彼氏ポジでしょ。見た目だけで決めてくるのホンットムカつく。』らしい。いやでも、この容姿で彼氏はちょっと無理が…。いや、忘れよう。恋の目が怖すぎる。
「ま、でもふくかいちょーを落とす方法もなくはないし。ゆいくん顔はわるくないしね。」
「え!なに、あんの!?」
「うまくいけば、ね?そのかわり、わかってんでしょ?」
うう、でも背に腹は代えられぬ…!
「お願いします!!!!!!!!」
そして明くる日。俺は恋の「ふくかいちょー落とすぞ作戦」を実行すべく、生徒会室へとやってきた。
コンコン
「はい。…なんだ君か。本当に懲りないな…。何度言われても返事は変わらな」
「あ、いや。恋に用事あったんで。おーい、恋、どこ?」
「あ、ゆいくん、おっはよ!なにしたの?」
「いや、今日一緒に帰れるかなって。」
「おっけー、了解!てか、後でもいいのに。」
「いやー、早く恋に会いたくてー。」
うそ、うそだよ、そんな目でみないで、酒井くん好きー!と言いそうになったが、必死で我慢。恋が計画した「ふくかいちょー落とすぞ作戦」は、『ゆいくん押せ押せすぎたから、違う相手と付き合ってますって見せ付ければ、あっちから縋ってくるかもっていうね。まあ、正直勝算はほぼ0…なんでもないよ!』というものだった。最後のは聞かなかったことにした。
やっぱり、というか、昨日まで好き好きアピール全開だった俺の突然の変わり様に、酒井くんは訝しげにこっちを見てるし、後ろの生徒会役員の方々は宇宙人でも見たような顔で固まっている。…なんであなた方がそんなにおどろいてるんでしょうか?
「話はそれで終わりか?そんなことのために一々生徒会室に来るのは止めてもらいたい。」
なぜかいつもより怖い顔の酒井くん。そんな顔も格好いい!が、恋に耳元で何かを言われ、途端に顔をしかめた。
「…とにかくもう帰ってくれ。」
バタン!
あれ、これ俺、失敗した…?
「ううっ。…もうだめ嫌われた生きていけない。」
「うわ、ゆいくんめんどくさ!っていっても、一応僕の計画だったし…ゴメン。」
昼には「遂に小山結翔が酒井利人を諦めた」というのと「あの小山結翔と久住恋が付き合っているらしい」という噂が学園中を駆け巡った。うそなのに。そんなわけないのに。
「いつまでそんなぐずぐずなの?他にもいい人いるって。ゆいくん顔だけはわるくないんだし。」
「ぐすっ。だめなの!僕はりーくんだけなの!!」
「は、え、なに僕?りーくん?…ゆいくん気が狂った?」
「ちがうー!…もういいや、俺の話きいて?」
********
それはまだ小学校に入る前の頃。
「りーくんあーそーぼー!」
「うん!」
俺はよく近くの公園で「りーくん」という男の子と遊んでいた。年も知らない、どこの家の子かも知らない、本名も知らない。そんな関係だったが、いつしか一緒にいるのが当たり前になっていた。
そんなある日。
「あのね、ぼく『りょこう』するんだ!」
「へえ、旅行かぁ…。どこにいくの?」
「えっとね、『はこね』ってとこ!」
「ずいぶん遠くにいくんだね。」
「りーくん『はこね』しってるの?」
「うん、僕もいったことあるし。何日間いくの?」
「えと、『さんぱくよっか』だっけ?」
「そっか…。」
「あ、りーくんもいこうよ!」
「僕はいけないよ。せっかくの家族旅行だし、楽しんでおいで。」
りーくんは俺の知らない言葉をたくさん知ってて、とても大人に見えた。でも、その日はなぜか悲しそうな顔で、笑って欲しい一心で必死に話かけた。
「りーくん、にこにこ、だよ?おすなあそび、する?」
「いや、大丈夫。でも今日で僕と君とはさよならだ。」
「なんで?まだおかえりのじかんじゃないよ?」
「ううん、違う。そっちじゃなくて、もうこうやって会うことはできないってこと。…僕のこと、忘れない?」
「うん…?」
「難しいか…いいや、忘れないようにしてあげる。」
そういってりーくんは俺に、
キス、した。
俺が箱根から帰ってくると、本当にりーくんとは会えなくなった。そしてしばらくして、りーくんは俺の初恋の相手だったのかと思い知った。
********
「え、なにそれキモい。」
「は、どこがだよ!?」
「うそうそ。ってかその話しぶりだと、りーくんがふくかいちょーで、ゆいくんにキスしたってこと?ほんとに?てかなんで今まで言わなかったの?」
「わかんない、けど、ちがかったらやだし。…ううっ。」
「はー、ゆいくん今まで飄々としてたから、これで落ち込むとは計算外…。」
「ううっ。もう学校来れない…。」
「あーもー、うるさいな!なら生徒会室いってこい!下がるとこまでいったし、もう下がりようがないでしょ!当たって砕けろ!」
「ええ…。」
そして、生徒会室。
「何だ。もう用は無いんだろ。久住の元へ行ったらどうだ?」
「…やだ。」
「はー。嫌と言われても…。さっさと久住のところへ」
「あの!酒井くんは箱根にいったことありますか!?」
「…は?」
これじゃない!間違えた!!
「ある。それが?」
「えと、じゃあ琳櫂公園、は…?」
酒井くんの目つきが変わった。
「幼い頃によく行ったな。君は?」
「僕も…。あの、りーくん、ですか…?」
そう言って目を瞑ると、俺は温かいなにかに包まれていた。
「あの、えと、」
「やっと思い出した?遅い。待ちくたびれた。」
「ふぇ、ちがう、ずっと、覚えてた。でも、ちがかったらって、思って…。」
「ゆいは本当に変わらないな…。じゃあ、覚えてたご褒美に、ね。」
そしてりーくんはまた俺にキスをした。
ここだけの話ですが、当初は組み合わせが逆だったため、違和感を感じる点があるかもしれません。どうか温かい目で見て頂けると幸いです。
お読み頂きありがとうございます。