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development

 仕事を辞めて一か月

まずは本格的に「吾輩」を飼うためにケージや首輪や餌等々を飼い、トイレの場所を躾け(これが思いの外簡単に済んだ)、私の部屋に慣れさせたりした。


最初の一週間ほどは恐る恐るといった感じであまり動かなかった。

しかし無害だと分かればもうそれでいいのか、まるで何年もここに住んできました、とでもいわんばかりに部屋の中を闊歩し、今では私が座っていると膝に乗ってきたり、パソコンのキーを打つ手を猫じゃらしよろしく叩いてきたりする。


 その間私の方はというと「やりたいこと探し」をずっとしていた。

いざ会社を辞めると、予想してはいたが、それを遥かに上回る「暇な時間」が生まれた。

趣味の読書に耽るにしてもあまりに時間が多すぎる。

そんなに長時間集中してはいられない。

前から少しやりたかった事を考えてみると「絵を描く」「小説を書く」ぐらいしか思い浮かばず、やってみよう、と意気込んで一か月、吾輩の妨害を受けながらもペンを走らせ、キーボードを叩いてみたが

、いい作品は出来上がらなかった。


「それはそうか、そんな事出来れば就職する前にやってる…」


と、そんな地味な作業をチマチマ続けていたら一か月経ってしまっていた、ということだ。

 

たまに職場の同僚から、いや、元職場の同僚から「上手くいってるか?」「ちゃんと食べてるか?」「この企画がここまで通った」というような連絡がくる。

心配してくれるのもありがたいし、発展していた企画には自分が関わったものもあったので嬉しかったが、やはり「自分の手を離れてしまっている」という事実についても考えてしまうのだった。


まだ一か月でもう帰りたくなってしまっている。

働いていた頃は「もう辞めたい」「億万長者になりたい」と愚痴をこぼしていたのに。


 しかしながら生活には全く困っていないのも事実だった。

栄養のある食事を取れているし、働いている頃は何かと考えながらた食べていたせいかもしれないが、こうもゆったりと食事を取るとなると、何故かより一層美味しく感じているような気がしている。

吾輩の餌も贅沢はせず、しかしながら安物でもない、という値段のものを与えていた。

どうやら満足しているらしく、毎回キッチリ残さず食べている。


もしかしたら量が少ないかもしれない、と思わないではない。


 兎に角今の所無駄遣いはなく、今年一年、正確にはあと十一カ月同じような生活が出来ていれば会社に戻る気は無い。


ただその残りの十一カ月を何もせずに過ごしていては、あまりに時間を無駄にしすぎている。

何か今すぐにでもある程度出来ること…

とテレビを眺めていて丁度昼時のお料理番組が始まった。


「…料理、料理か…」


働き出してからというものの、昼も夜もコンビニの弁当で済ませたり、外食で済ませることが多かった。

料理の経験が全く無い、ということはなく、大学生時代一人暮らしをしていた時には偶にではあるが料理していた。

我ながらレシピさえ見れば味が悪くない物を作れていたように思う。

ゼミでの作業や卒論、終活に追われてだんだんと今のようなコンビニ弁当生活に落ち着いてしまった訳だが、この無為な時間を有効に使うには、これが一番手を付けやすいのではないか…?


昼食はまだだった。やってみるしかない。

「…よし…」


今から買い出しに行って作って、としていては、いつも吾輩に餌をやっている時間は確実に過ぎてしまう。

以前餌をやり忘れて昼近くに寝てしまった時には、起きると顔に吾輩の手が置かれていた。

何事かと焦った。


「少し早いけど飯だぞ、吾輩」

餌の入った袋をガサガサとやると「待ちわびた」と言わんばかりに台所へ突進してくる吾輩。

吾輩も太ることも痩せることもなく健康体であると思われる。

毛並みも良い。


「よし」

吾輩に餌をやった。昼食は様子見にオムライスにしよう。

最近食べてないし作るのが難しいこともなかった、はず。


ここ数日感じていなかった興奮を胸に家を出て車を走らせる。


 近くのスーパーが安いとは耳にしていたが今となっては色々相場が分からない。

新聞でも取ってればチラシで判断が付くかもしれないが…

いや、実際多少の値段の差程度であれば財布に響かないのは確かだ。

何も一級品だけを揃えた極上のオムライスを作ろうというのではない。

大学の頃作ったような素朴な物でいい。


適当に材料を見繕って家へ帰る。

実家で出るオムライスがチキンライスではなく、「ウインナーライス」だったので大学の頃もそうしていたのを思い出して今日もそうした。


部屋に入るともう吾輩は餌を食べ終わっている。

しかしスーパーのビニール袋の音を聞くなり「追加か」とまた突進してくる。


「違うぞ吾輩、これは僕のだ」

吾輩の腹を抱えて、窓際の吾輩用のベッドへ連行する。

不満そうに吾輩が鳴くが気にしてはいられない。


「さて、作るか」


材料をキッチンに並べて手を洗ったところでふと気が付く。




「そうか…炊飯器壊れてたんだった…」


昼食はコンビニの弁当で済まして、冷蔵庫に材料達を収めた。


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