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最期

作者: 冬姫0818

メーデー、メーデー


人類は間も無く滅亡します。

ある日、突然出現した紅い雲に原因があった。『紅雲』と呼ばれるようになったその雲は雨のようなものを降らし、その雨の中に分子レベルの毒だとかが入っているそうで、その雨にうたれた人は眠るように死んでいった。その様子を見て、あぁ、人類の滅亡ってこんなに呆気ないものなんだと思った。













「涼!こっちだよ!」


都心にある駅の近くの交番前。昔は沢山人が通っていたこの場所も、今はもう数えれるほどしかいない。廃墟と化してしまったこの場所で、1人の少女は僕を呼んだ。その少女は現実味なく存在が輝いていた。

少女の名前は理沙。僕の、大切な人だ。


「理沙、そんな大声で呼ばれなくても分かるって」


「だって早く会いたかったし」


そう言う少女に僕は甘くて、少女の手を握った。彼女はつい先日、「デートしよ!」と言ってきた。だから、僕達は今ここにいるんだ。



「じゃあ、行こっか」


僕は彼女の手を引っ張った。














その後は普通のデートだった。カフェでお茶したり、映画館で映画を見たり、とても充実した時間を過ごした。


「私はね、みんなを幸せにしたかったんだ」


映画館を出て、近くの公園のベンチで彼女は口を開いた。


「過去形なの?」


「うん、出来なかったからね」


理沙の顔には悲しさは見られない。多分、悲しいのは僕のくだらない感傷だ。だからささやかな反抗として、コメントをする。


「まだ分からないでしょ?まだ生きてる人がいるんだから」


そのコメントを聞いた理沙はこちらを向き、

微笑んだ。


「そうだね」


・・・・・なんだよ、それ。そんなに儚く笑わないでよ。そんな消えてしまいそうな顔、君がしないでよ。


そんな想いを隠すように、僕は目の前の景色を見る。


「しかし、これが世界の終わりかぁ。呆気ないなぁ」


「そう?私はちょっと好きかも。涼とふたりきりだし」


そう言った理沙は僕に顔を近づける。彼女の甘い香りが僕の鼻を刺激してきて、心臓がバクバクする。


「ねぇ」


彼女は耳元で囁く。


―私と、火星に行かない?


火星。今、紅雲から逃れるために火星移住プロジェクトが建てられていて、選ばれた数名が宇宙船で火星に移住する、という話。10年前から計画されていて、その船が火星に行くのは明日である。理沙は、この事について言っているのだろう。理沙はその選ばれた数名のひとりだから。


僕は瞼を閉じて、ふ、と笑う。


「僕が火星なんて似合うと思う?」


僕は彼女を引き剥がし、手を頭に乗せて撫でる。彼女に笑ってみせて、子供に教えるように言った。


「僕は普通に生きて、普通に死ぬんだ。この地球で。ずっと過ごしたこの星で」


僕は理沙みたいに素敵な人間じゃない。僕は臆病者だ。そんな僕が、選ばれた人達と一緒に火星に住める訳がない。まあ、この星から出るつもりは元々ないけれど。


「そっか」


彼女の瞳が一瞬悲しさが宿った気がした。気のせいでありたい。


「じゃあ最後に言わせてほしいな」


彼女は立ち上がり、僕の目の前に立つ。


「私は、涼に出会えて良かった。涼と過ごした時間は、すごく楽しかった。だから、」


彼女は微笑んで


「ありがとう!さようなら!」


心が鉛のように重い。内心こんなことになって欲しくなかった。理沙にそんな顔させたくなかった。諦めを知ったそんな顔は。僕は理沙には、こんなのにはなって欲しくなかった!


それでも、それでも、僕は理沙の全部が好き。それだけは確かだった。

















その次の日から、理沙はいなくなった。火星に行く船が地球から離れていく。僕は雨にうたれながらそれを見ていた。右手にひとつの小型ラジオを持って。地球を出る前、彼女から貰ったものだ。「船が出たら聞いて」と言われていたので、聞こうと思い、電源を入れる。


『あーあー、聞こえる?』


昨日聞いたばっかの声。


『宇宙船の私から、地球にいる涼へ』


涙が溢れてくる。昨日あったはずなのに懐かしくて、愛おしかった。


『涼は今元気?』


鼻水が出てきて、腕で擦ると、付いたのは大量の鼻血だった。格好つかないな、て笑ってしまう。


『私ね、ずっと考えてた。なんで涼は地球にいたいんだろうって。そして、分かったんだ。こんなに綺麗な青い星だもんね、地球って』


君の声を聞いて行くと、想ってしまう。あぁ、会いたいって。


『正直、涼がいないのは寂しい。涼がいない未来は嫌だ。でも、それでも、あなたが一緒にいなくても、あなたがいない未来でも、あなたを愛することを誓います』


誓うって大袈裟だなぁ。


『涼。愛しています。世界、いや、星で1番、愛してる』


これを聞いてて、思った。理沙を火星に送り出して良かった、と。こんなにも素敵な人には生きていて欲しいから。


僕はその場で寝転んで、


「理沙、おやすみ。僕も、星で1番、愛してる」



たとえ、死んでも僕は、あなたを愛しているだろう。だってあなたは、こんなにも綺麗なのだから。

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