穢れと共に。
不定期ですみません。
短いですが、キリが良いので。
灰色の闇を落ちていく私の意識の外側で、微かにオルの血を吐くような叫びと思念が感じられた。
ごめん。でもオルならきっと分かってくれると思う。
だって彼を止めたのは神様達だから。そしてこれは必要な事だから。
私はそっとお腹を撫でて呟いた。
「ごめんね」
ごめんね。私の愛しい子。
「どういう事だ!! なぜエンリが!!」
目の前が真っ赤になるような怒りと共に振り下ろした拳は地面を大きく抉ったが、俺にとってはどうでも良い事だった。なぜ、どうしてとエンリを責める気持ちと、ただ失うかもしれないという悲しみが俺の心の中をごちゃまぜに荒れ狂っている。
それを解放したらどうなるだろうかと思うが、今はとにかく冷静になる必要があるのも分かっていた。
「答えろシナトベ! 居るんだろう!」
俺の目の前に緑一色の女性が現れる。いつもエンリが探索や警戒に呼び出す、日本の風を司る神らしい。
『人の子よ。その荒れ狂う力を抑えよ。風か影響されてうるさくなる』
「エンリが無事なのかだけでも教えろ!」
『当たり前であろう。我らが人の子を止めたのは、それが必要だからに他ならぬ』
「なぜエンリなんだ。あれはアイツの穢れとやらじゃないんだろう?」
エンリが無事ならばそれで良い。それを聞けただけで身体中を駆け巡っていた力を抑え込むことに成功する。
ただ俺は気づいていなかった。エンリの神達は『エンリの無事』しか言ってなかったことを。だから俺は次の言葉に再び怒りを発することになる。
『あの穢れは、エンリの腹の子のものよ』
だから灰色はエンリを傷つけない。腹の子を守ることはエンリを守ることだから。
ふざけるな! ふざけるなふざけるな!!
『荒ぶるな人の子よ。エンリと共にある者の荒ぶりは、我らの身に堪える。加護が届かなくなるぞ』
その言葉に俺はなんとか心を抑える。今は自分の元にエンリを取り戻すことが重要だ。彼女が無事なら腹の子も無事であるはず。
『穢れとはいえ神の一部。人の身で背負うべきものではないのだが、『エンリ』は代々穢れとして生きてきた。日本という国で、かの者たちは遠くに流れ、そして再び神は柱として彼の国を支えてきた。そこに別世界の神からの介入があり、輪に歪みが生まれた。それは世界を、時間を超えて大きな力を持つ者の手に渡る』
「エンリというのは、種族の名なのか?」
『うむ。エンリがエンリと名付けられたため、あの者は多くの穢れを背負うこととなった』
俺は彼女に出会った頃を思い出すが、何かを背負っているようには思えなかった。
「本人は特に何かを背負っているようではなかったが?」
『あれは尋常じゃない担力を持っておる。神々を降ろすことも負担に感じぬのは、驚異であるな』
そうか……と、俺は妙に納得した。
この世界に来てからの彼女は、驚くくらいに冷静で常に平常心だった。それは、そもそも普通の人間ではなかったということなら、それは納得できることだ。
「おい、俺はどうすればいい?」
『待つことであるな』
「どれくらいだ?」
『分からぬ。あの穢れを腹の子が受け入れるか分からぬからな』
「…………」
気がつくと、俺の顔は濡れていた。
周りにいるエンリが召喚した神々は、そんな俺に声をかけることなく、ただずっとそこにいてくれた。
それから、何日経ってもエンリは戻ってくることはなかった。
心の繋がりも、何もない。
この世界から彼女は消えた。
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