灰色の考察。
お待たせしてて、すみません。
灰色の人間は、この世界以外の力……私が元いた世界『地球』の影響を受けている。それも日本の神様の影響だ。
なぜ神様の影響を魔王が受けてしまうのかは、それは日本の神話を読めば分かるだろう。
どこかの宗教とは違って一神ではない日本の神々は、和魂と荒魂という表と裏の存在があったり、悪神だって多くいる。そもそも自然の一部として災いも神の御業と言われるくらいだ。清いものだけではない。だからこそ穢れを祓う神社があったりするのだ。神とはいえ流れが絶えれば濁るのは、川の流れと同じく『自然の摂理』だ。
元々『魔王教』などという、訳のわからない宗教にハマるような人達だから、そういう穢れとか濁りとかを受け入れやすかったんだろう。魔王が飛び散った後にそれを受けて、良からぬ存在となってしまった。
もしかしたら他にも原因があるかもしれないけど、とにかく今は灰色の存在を消すことに専念しよう。
「清廉潔白な人間なんていないけど、あそこまでおかしな存在になるって、灰色達は一体どんな人生を送ってきたんだろうね」
「クラウスの姉の一人も灰色の力に侵されていた。元に戻るかは分からねぇけど、あの女の場合は育った環境もあるからなぁ」
「環境? クラウス君を見てたら、王族にしては良い環境だと思ったんだけど?」
「クラウスは七才まで病弱で、その頃は両親を始め家族皆が彼に付きっきりだったそうだ。その時に彼女は一人にされて、こじれてしまったらしい」
「うーん。クラウス君の他の兄姉は普通だよね?」
「ちょうど甘えたい時期に甘えられなかったんだろうな。すべての人間がそうなるとは限らないが、運が悪かったんだろう」
「むー」
納得できない私の頭をオルが優しく撫でてくれる。うむ。苦しゅうない。そんなご満悦な表情になった私に、オルは呟く。
「やっぱりエンリを連れて行きたくねぇな。お前は優しいから灰色の奴らにも甘い対応をしそうだ」
「そうだねぇ。でもやっぱり一緒に行くよ。そうしなきゃいけない気がするの」
「……分かった。絶対に無理するなよ」
「うん。ありがとう、オル」
しかめっ面のオルの頬を撫でると、指が少し生えた髭に当たる。整えることを忘れるくらい、私のことが心配なんだろうと思うと、無性に愛おしく感じた。
渡りの神との通信を切っていることを確認して、今度こそ私は安心してオルに甘えるのだった。
一週間ほど狛犬のアーちゃんとウーちゃんの引く馬車に揺られ(実際ほとんど揺れてないけど)、私達はかつて銀髪の勇者が魔王を制したと呼ばれる場所に到着した。
この世界の、最北にある地。
かつては巨城があったそうだけど、今は瓦礫と岩ばかりで草木は一本も生えていない。灰色の大地と、灰色の瓦礫と岩。辺り一面全てが灰色だ。
「とりあえず着いたが、人の気配はないな」
「そうだね。シナトベに見てもらっているけど、
本当に何もない場所だ。そこで私は何かがおかしい事に気づく。
「あれ? 本当に何もない?」
「どうしたエンリ?」
「何にも感じないよ。なんていうか、上手くいえないんだけど、他のところは力というか気というか……」
「マナか?」
「そう、そういうやつ。そういうのが全く感じないよ」
「確かにおかしいな。魔王とはいえ、この世界に存在していた限りはマナを必要としていたはずだ。それが全くなくなるというのはおかしい」
「私達が無事なのは、スクナビコナが守ってくれてるのと、オルが受けている加護のおかげだと思う。だってこんな所じゃ空気がないのと同じだよ。誰も生きていけない」
言ってるうちに震えてくる。ならばなぜ、灰色達はここで活動出来ていたんだろう。
そこまで考えていたその瞬間、地面が揺れて思わず私は倒れそうになるけど、安心設計のオルにふわりと抱きとめられる。むふー、あいも変わらず素晴らしい筋肉……と、今はそれどころじゃない!
「何か来るな」
「オル、分かる?」
「シナトベにも分かってないんだろう。これは出て来るのを待つしかない。他の神も出しておけよ」
「もういるよ。勝手に出てきてる」
今までにない危機感を感じたのか、私の周りに神様達の存在を感じる。オルは若干引きつった笑みを浮かべつつも、警戒はそのままに私をしっかりと抱きしめた。それでも何かおかしい。
「ごめん……オル……」
「どうしたエンリ。何を謝る」
「ちょっと、行ってくる」
「!?」
しっかりと抱きしめられているはずのオルの腕は、私の周りに集まった力によってするりと外される。目の前の地面に亀裂が入って、大地が割れて灰色の闇が隙間に見えている。
「エンリ!!」
叫ぶオルは動けないみたいだ。後ろを振り返ると神様達が物凄い力で彼を抑え込んでいるのが見えた。
「大丈夫だよオル!!ちょっと行ってくる!!」
笑顔でそう言った私は、彼の心臓が止まらないように祈りつつ、両手を広げて身を投げ出す。
灰色の闇が渦巻く、深く深く裂けた大地との隙間に、私はゆっくりと静かに落ちていったんだ。
お読みいただき、ありがとうございます。




