砂漠の中のビアン国
遅くてすみません!
まばらだった緑の風景が、やがて何もなくなり、一面が砂漠の風景となった。
『魔王教』と呼ばれる灰色の集団は、各国に存在しているというアズマ国からの情報を元に、道中倒した人外となる灰色が向かった先であろう、ビアン国に向かっている。
オルはなぜ十年経った今なのか、魔王は存在しないのになぜ活動をしているのか、色々と疑問があるらしい。
砂漠の旅は辛かった。索敵をして、怪しげな存在はないかと随時起きてないといけないところが、暇で辛かった。魔法を使う者にとって、砂漠の旅はあまり辛いものではない。
だってこの世界の砂漠は、しょっちゅうオアシスがある。
高名な魔法使いが作ったそうな。作ったオアシスってどうよ。ロマンが無いよ。
まさか高名な魔法使いって、クラウス君じゃないよね?
「オル、ビアン国ってどんな国?」
「珍しく商人が王となった国だな。砂漠のど真ん中に穴を掘って、多くの鉱石を掘り当てたのが始まりだという。んで、そのまま町が大きくなって国となった」
「へぇ、石油王みたいなもんかな?」
「セキユ?よく分からんが、まぁとにかく普通の王じゃない。あと一夫多妻が普通だ。だから俺から離れるなよ」
「もう、オルはいつも余計な心配ばっかりでー」
大丈夫だよと、笑ってた時代も私にはありました。
「うん。まんまと捕まった」
「人の子よ、なぜ我らを使わぬ」
「だって目立つから」
ビアン国の国境付近の町には検問があり、冒険者ギルドのカードを見せたオルは、別の窓口から呼び出されていた。
馬車の中で待ってれば良いのに、つい外でストレッチなぞを行ってしまっていた。完璧に私のミスである。
「ここで目立つと、あいつらが逃げちゃうもん」
「ふむ、だがあの武人が自重できるかどうか……」
縛られた私のそばに、風と同化しているシナトベが付いていてくれている。オルもそれは分かっているはずだ。
あと、この誘拐の目的が何なのか、それも知りたかった。
麻袋の中に放り込まれ、運ばれること約五分。どうやら到着したらしい。
袋から出され、拘束を解かれる。
「ほう、本当に黒髪の女だとは……身体もまぁまぁだな」
閉じていた目をゆっくり開けると、目の前に『麗人』が座っていた。
豊かに波打つ黒髪には所々宝石が施され、浅黒い肌にエメラルドの瞳。白を基調としたシルクっぽい服の上にはゆったりとした布を巻きつけていた。
オルに負けないくらいのバリトンボイス。それでも声には甘さの一欠片もない。ただ私を物のように見る視線も不快極まりないものだ。
それでも、この男は何故かオルを思わせた。
それが無性に私を……
「とりあえず、アンタ土下座」
……苛つかせた。
エンリの気配が消えた時、検問にいた俺はすぐさま追いかけようとした。
それを止めたのはタケミカヅチとフツヌシだ。魔王教関連だったら、自分が囮となるという事らしい。
ふざけるな。
二神が止めるのは聞かず、俺は最大出力でエンリのもとに行く。俺にエンリの加護があり、気配を辿るのは簡単なことだ……と、不意に足が止まる。
「どうしたか武人」
「追わぬのか武人」
なんだかんだ言っても、二神は俺に追いかけて欲しかったらしい。俺が止まったのは、エンリの気配が消えたからだ。
気配が消えるということは、結界の中にいるか、命を失っているか……
「おい!お前たちはエンリの気配を追えないのか!」
「無理だ、人の子の命を遂行中」
「無理だ、行きたくても行けぬ」
「もし、もしエンリが……」
「人の子は生きておる」
「人の子は死なぬはず」
「……ならいい。俺はいつエンリの元へ行けば良いんだ?」
「あと半刻」
「一時間だ」
「分かった」
俺は放置してた馬車を宿に預け、ついでに宿泊の予約も取る。
この町には充実した風呂の設備があるから、絶対エンリと入ってやると心に決め、ひたすら二神の合図を待つ事にした。
エンリめ、後で絶対にお仕置きだ。
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