暗躍する灰色
「五ヶ国というと、エルトーデを合わせて?」
クリストハルトさんの言葉に、ショタ帝は顔をしかめる。
「東の奥にある森の民の国、北の山の民の国、ビアン国、スパニー公国だ」
「森のエルフだけでなく、北の竜まで……」
オルは信じられないと呟く。竜?
「ここで言う竜は高い知性があり、人の姿をとることもある強い存在だ。エンリの呼び出す神に近いかもしれない。闇に堕とされて邪悪竜になるやつもいるけどな」
クラミツハみたいな存在かな。竜神だし。
それにしてもエルフと竜か……エルフって美人多いのかなぁ。
「アズマに巣食っていた魔王教の奴らは、姫の暴走の時に国外に逃げ出したようでな。南に向かったという情報もあって、我が国の者を追わせたが途中で音沙汰なくなってしもうた」
痛ましげに顔を歪めるショタ帝。うん、結構人の血が通ってたのね。
それにしても、これは色々とややこしい事になっているみたいだわ。魔王教こんちくしょうだわ。
「第二王子。俺とエンリはビアン国に行くと、クラウスに伝えといてくれ」
急いで立ち上がるオル。灰色野郎を捕まえるチャンスかもしれないから、すぐに出発だね。
「分かった。私達はもう少しここで話を詰めておく」
「お二人ともお気をつけて」
クリストハルトさんとアルトゥールさんに声をかけられて私達は頷くと、オルの合図でシナトベを呼び出す。
「お願い、宿まで運んで!馬車を拾ったらすぐに出発するよ!」
「人の子エンリ、承った」
シナトベは私とオルを風に浮かし、城を窓から飛び出し宿まで一気に飛ぶ。
空間魔法で移動でも良かったんだけど、あまり手の内は見せられないからね。
こうして私達はアズマ帝国を短い滞在で出国し、魔王教の灰色野郎を追いかけるべく、南へ馬車をかっ飛ばすのであった。
あ、ピンキーにお別れ言うの忘れてた!
あと、あの伸び伸びるチーズ買うの忘れてた!
「して、いかがでしたか帝」
「うむ。アレは脅威だな。我は久方ぶりに母上から怒られた記憶を呼び覚まされたぞ」
「ははは、そうですね。彼女は温かく、母親のようだと私も思います」
「そして救国の騎士。彼の胆力の大きさたるや……あれは本当に四十を越えているのか」
「本当ですよ。彼はエルトーデに在籍してはおりますが、国同士の諍いには参加させません。エンリさんは冒険者ギルドに籍はありますが、基本はどこの国の者でもありません」
クリストハルトの言葉に、舜帝と呼ばれる男は目を細める。
「あの者は救国の騎士の妻であろう。なぜ国に属せぬ?」
射抜くような視線をものともせず、クリストハルトはその美しい顔に笑顔さえ浮かべてみせた。
「それは『万能の魔法使い』から聞いた事ですが、彼女は神子姫だと」
「何!?ならば教会の庇護下に置かねばならぬであろう!?」
教会は世界共通の信仰を取りまとめる場所であり、どんな小さな村にも教会はある。
この世界の全ての神を信仰する窓口となっている教会では、稀に生まれる『神子』という存在を庇護している。神子は特殊な能力を有している場合が多く、教会は有事の際に神子を派遣する役割をも担っているのだ。
「彼女の加護は『渡りの神の』ですから。今のようにオルについて世界を巡る事こそ、神子役割ではないかとの見解を教会から貰いまして」
「本音は?」
「……オルフェウスとエンリ殿の暴走させないように、建前を王家が作りました。現にオルの暴走を見せたりもしました。ははは」
「エルトーデ王国には強力な人材がいて羨ましく思うたが、何やら平和なアズマが一番だと感じてきたぞ?」
「ははは……はぁ」
憐憫の表情の舜帝に、乾いた笑いくらいしか返せない第二王子であった。
彼の苦労はまだまだ続く。
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