帝の血とは
「ふむ。驚いておるな」
帝は持っていた扇を軽く叩くと、数人の侍女っぽい人達が現れて、玉座の奥の部屋に通される。
テニスコート半分くらいの部屋に、大きなテーブルと椅子が五十脚くらい並べてあった。
なぜか私は帝のそばに連れて行かれる。オルの顔が怖い。
「さて。救国の騎士の嫁よ、我の子を産まぬか?」
瞬間、オルの殺気が冷たい刃となって吹き荒れる。クリストハルトさんとアルトゥールさんが慌てて抑えるように言う。
帝は楽しそうに笑った。
「ふむ、やはりのう。怒らせると国が滅びそうじゃ」
オルが殺気を抑えるけど、冷気はそのまま部屋にある。しかもさらに膨らんできた。
「あれ?オルフェウス?」
「や、俺じゃねぇ」
膨れ上がる殺気はそのまま人の形となり、その数は二十ほど。
「む、結界札は効かぬか」
「うん。そりゃそうだよ。異界とはいえ神様だからね」
「まさか、これほど……」
「エンリ様!?」
クリストハルトさんとアルトゥールさんが慌てているけど、私の知ったこっちゃない。
「帝だか何だか知らないけど、私のオルを試すような事をした。そこに私に対して気持ちがあればまだ許したけど、あんたはオルの力を見たいという理由だけで、オルの心を乱した」
私の周りに集まる神々。ゆっくりだけど増えていく。
「知ってる?異界の神には『やおよろず』の神っていうのがいてね?」
「……」
「八百万って書いて、やおよろずって読むのね」
「……」
「本当にそれだけいるのかなーって、そんな好奇心を抑えられないんだけど」
「……すまんかったああああああ!!」
飛び上がって土下座する帝。ジャンピング土下座って初めて見たな。
第二王子とその家臣に宥められ、しょうがなく神様達を引っ込めた。皆「えー、戦じゃないのー?」「気合入れて戦装束を新調しちゃったよ」とか口々言いながら還っていく。ごめんねっていったら「今度お菓子供えといて」って言われたから、今度大量に錬成しておこう。
そしてオルは口に手を当てて顔が真っ赤になっている。なんでだ?
ショタ爺の帝は未だ土下座のまま、侍女っぽい人達はおろおろするだけで、事態の収拾はつかない。
私はため息をつくと、席に戻ってオルの膝に座った。
「もういいよ。オルに何かしたらどうなるかって分かればいいよ」
「そ、そうか、すまぬ」
ショタ爺は起き上がり、やっと全員が席に着いた。
「まさかオルフェウスよりもエンリ殿の方が…」
「すごかったです……神力とも魔力とも違う、あの力…」
「オルに関わらなければ、こんな事しないわよ」
オルの太ももの筋肉を楽しみつつ、私はお澄まし顔でお茶を啜った。オルはそんな私の頭を撫でて、たまに頭にキスを落としている。うむ、苦しゅうない。
帝は気を取り直し、背筋を伸ばした。
「本題だ。この姿を見て分かると思うが、この帝の血というものは呪いのようなものだ」
「不老……ですか」
クリストハルトさんが難しい顔をしている。うん、確かに不老って女性の憧れみたいなものだよね。
「我は、姫もそうだが、寿命の一年前くらいから急に老い始める。それが合図だ」
「それまでは、その姿ですか……」
「これは一族に連なるもの全てがそうなっている。そして我らは皆『神の加護がない』のだ」
「なるほど。それで加護持ちを狙うというわけか」
灰色ゲス魔法使いの言う言葉も、一応根拠があったのか。
「うちの姫が怪しげな魔法使いとつながりを持ったと聞いた。姫の馬鹿さ加減に我も呆れた。その魔法使いはエルトーデ王国から来たと言っていたが……」
身構えるクリストハルトさんとアルトゥールさん。
「責める気はない。其奴の話は他の国からも届いておる。今の所同時に五カ国だ」
「「「「ええ!?」」」」
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