茶飲み友達が増えた…のか?
昼までオルは帝都のギルドに行くと言い、ついて行こうとしたら断られた。
「男が多いところだとエンリは目立つ」とのこと。
オルだって目立つくせに。
そんなわけで、宿から出られない私は食堂で軽食をとろうと思い、部屋を出ると……
「昨日は大変失礼いたしました。エンリ様」
「来てやったぞ、女!」
ピンキー姫と爺やさんがドアの前に立っていた。怖いよ。
「なんじゃこれは、むぐ、伸びるな、むぐぐ」
「むぐむぐ自分も国の食べ物なのに知らないの?」
「姫様は市井の食にも縁遠く……」
ピザのような食べ物に乗っている、伸びるチーズと格闘するピンキー。
長い髪が汚れないよう、爺やさんが後ろで髪を持っていた。
私はもう慣れたもので「伸びるチーズマスター」と呼ばれてもいいくらいの回避力を身につけている。伸びーる伸びーる伸びーーピタッ…………ちくしょう。
「ところで女。聞きたいのじゃ」
「なあに?オルは渡さないよ?」
ほっぺについたチーズを取りながら、とりあえず自分の言いたい事を言う私。
「それはまた話し合うとして、その胸はどのようにして育てたのじゃ?」
「へ?育てた?植物じゃあるまいし、知らないよ」
「そんなはずないのじゃ!隠さず言うのじゃ!」
「ふにゃああああ!!」
いきなり立ち上がったピンキーは、正面から私の胸を鷲掴んだ。殺意がないせいか神様は現れなかったけど、爺やさんが鼻血噴いて倒れた。
「なっ……爺!?……ぐぬぬ、なんという破壊力……」
「アンタのせいだろが!!!!」
よく見ると店内でも数人倒れている。どれだけ巨乳耐性がないんだ帝国民は。
「うむ。魔王と戦いでも、巨乳魔族との戦いは非常に苦戦したと戦史にも載っておる」
「苦戦の理由がひどい」
ピンキーは最後の一切れを食べ終わると、私の胸をたゆんたゆんさせる。遊ぶな。
胸を大きくする方法ねぇ……。
「鶏肉かなぁ、乳製品とか?」
「乳製品?」
「この伸びるチーズみたいなやつ。あと胸筋を鍛える。筋トレとか」
私は筋トレやってなかったけどね。
「「「「「なんですって!?」」」」」
店内にいた女性陣とピンキーは立ち上がる。そして早速肉屋に向かい、チーズを買い占めに市場へと突撃しに行くのだった。
数年後、帝都に筋肉ムキムキの女性軍団『尼曽寝巣』が発足される事になるのだが、それは私のあずかり知らぬことであって、その筆頭がピンクの髪だということも、これから先の私に知る機会は無かったのである。
だったら面白いな……。
ピンキーと女性達が出た後の食堂には、鼻血を流して倒れる男どもが死屍累々として見るに堪えない有様だった。
私が言うのもなんだけど、この国大丈夫なのかしら……。
「やぁ、オルフェウス。久しぶりだね!」
ギルドを出ると、エルトーデ王国第二王子のクリストハルト・ツヴァイ・エルトーデは、濃紺の宰相服に身を包み、軽く手を挙げ挨拶をしてきた。
望まぬ再会に、眉間のシワが深まるのを意識する。
こいつは女遊びが激しいという噂だ。エンリに近づけさせたくない。
「ああ、あの噂のせいで、君の機嫌が悪いのかい?大丈夫だよ。君の大事な人に手を出したら国が滅んでしまうだろう?」
「その通りだ」
「否定しないとはね……まぁいい、私には唯一の人がいて、その人を守る為の噂だよ。じゃなきゃクラウスが寄越すわけがない」
「……分かった。まぁ、エンリに危害を加えるのは、例え俺であっても無理だからな。一応確認したかっただけだ」
「クラウスから聞いているが、そこまでか…」
「あいつの召喚したのを一神相手するので引き分けがやっとだ。敵じゃなくて良かったな」
「それはすごいね」
クリストハルトの目が細まる。が、すぐに明るい表情を取り戻す。彼の迎えが来たようだ。
「クリストハルト様!クラウス様がお呼びです!」
クリストハルトの家臣らしき青年に呼びかけられ、「じゃ、後で会おう」と去って行った。
俺の眉間のシワは消えない。
何故かは分からないが、とにかく今は宿に戻ってエンリに癒されたい気分になった。
「多少遅れても良いだろう」
俺はニヤリと笑い、速攻で宿に戻るのだった。
お読みいただき、ありがとうございます。
何とか今日間に合いました…




