東と書いてアズマではないらしい
「あ、お札が貼ってある」
木造の平屋が並ぶ商店街。私達二人は帝都入り口近くの宿に馬車を預け、早速観光……と言う名の調査に繰り出した。
アズマ帝国の治安の良い理由は、この札にあるという。
札は国から交付され、店や住居を持つ時の手続きをすると、悪意除けの札をもらえる。
これがまたすごいのが、持ち主の悪意も読み取るそうだ。
犯罪予備軍、詐欺商法、裏組織の隠れ家……等々、その札を持つだけでもムニャムニャなことになるらしい。
貼ってある家は「安心安全な人と場所」ということになる。
オルの双剣は、私の作った「収納石」が嵌め込んであるベルトに入っている。念じればオルの魔力に反応して出てくるので、オルに凄く喜ばれた。これは武器不携帯の場でも使えてしまうチートアイテムなので、身内にしか作らない。
私は身内以外はどうでも良いのだけど、人様に迷惑かけたくないタイプの小市民だ。
そんなわけで、今の私達は武器を持っていないように見える。
そして囲まれている。一見町人風の輩が十人ほど。
「オルフェウス・ガードナー殿で間違いはないか」
「……だとしたら?」
「我が主に会っていただきたい。そこの女性も一緒に」
オルが私を見る。私はコクリと頷く。
「分かった。案内してもらおう」
大通りには和風な屋根付き馬車が用意されていた。
二人で乗ると、馬車はそのまま一時間ほど走り、帝都の中心地から離れた牧草地帯に入る。
「馬がたくさんいるねぇ」
「ああ、ここは騎馬隊が強いんだ。魔王戦の折には騎馬隊が魔族を翻弄する姿に、圧倒されたな」
「そっかぁ、騎馬隊を派遣した国って、アズマ帝国だったんだね」
「うちの王様とも懇意にしてるって話だ」
「ん?だからこの話受けたの?」
「殺気は無かったしな。身分の高そうな匂いもした。厄介事ではあるだろうけど……面倒クセェ」
オルは眉間にシワを寄せて唸っている。
私は、何だか少し嫌な予感がして、オルの腕にそっと手を置く。
「大丈夫だエンリ。お前は俺が守る」
「ううん、違うの。今回はオルに何かありそうな気がする」
「分かるのか?」
「準備はしておく。冒険者は常に最悪を想定するって、オルが教えてくれた」
「ははは、そうだな」
オルは朗らかに笑うと、私の頭をくしゃっと撫でた。
大きな手は安心するんだけど、なんか嫌な予感がするんだよね。ハァ…。
大きめの神社みたいな建物に着いた。
馬車から出ると、いかにも「爺や」という人が袴姿で出てきた。
「オルフェウス・ガードナー卿、お連れ様、わざわざご足労いただき感謝致します」
「ああ、そういうのはいい。案内してくれ。こっちも暇じゃない」
「かしこまりました。では早速ご案内致します」
オルの態度に怒ることもなく、爺やさんは粛々と案内している。
不機嫌を隠そうともしないオルに、私は目線で問いかけると、オルは手をワキワキさせた。なんだ?どうした?
(屋敷の門番の奴ら、エンリの乳ばっか見やがって。これは俺の乳だ)
(わざわざ念話で!?…つか私の乳は私のだっ!!)
オルには『エンリ・モリノ』の加護がある。その一つに私と念で話せるという、そら恐ろしい技が使えてしまうのである。
なぜ恐ろしいかというと、遠く離れていても「可愛い」「愛してる」「お前の(R18)が(R18)」とか、平気で使ってくるのだ。やめれ。
靴は履いたままらしい。アジアンぽかったから、もしかしてって思ったけど違うみたい。
長い石畳の廊下をてくてく歩くこと数分。行く途中に見たのとは段違いの、大きな扉の前に立たされる。
「お連れしました」
ギギギと内側からドアが開く。
そこにはトウで編んだ大きめな椅子に座り、ピンクのスケスケな薄衣を身に纏い、クッションを気だるげに抱きかかえる少女がいた。
「待っておったのじゃ。近う寄れ」
まっすぐな髪は長く伸ばしていて、ピンクの髪にピンクの瞳。すっごい綺麗!美少女の美!可愛いは正義!!
「ここでいい。なんの用だ」
「ふむ。では要件を言おう。妾と結婚してほしい」
「「…………は?」」
何言ってるんだ、このピンキー女が。
ピンキー…
お読みいただき、ありがとうございます!




