尻はともかく腰が痛い
神馬は私の召喚で呼び出した「鎧をつけた馬」だ。
疲れないし、餌もいらない。お礼として作ったお菓子をあげると、さらに頑張る良い馬達だ。
基本、移動の時だけ呼び出しているけど、たまには違う子を呼び出してみようかな…
【アウン】
き、き、きたーーーーー!!
よくいる狛犬ではなく、でっかい柴犬みたいな子が二匹出てきた!!かーわいいー!!
「お、今日は馬じゃねぇのか、ん?なんだ?ぶっ、おい、舐めるな!」
馬くらいの大きさのワンコ二匹にめっちゃ懐かれてるオル。すごい顔舐められてる。あ、押し倒された。
分かるわぁ、オルって甘えたくなるよねぇ。うんうん。
「おいエンリ!見てねぇで助けろ!」
えー、だってめっちゃ尻尾振ってるよ?……あ、すみません。すぐ止めさせます。
私はリュックの中から、ダシ取り用の巨大な牛の骨を二本出し、そーーーいっと投げる。飛んで行く二匹と、すっかり服を乱され無駄に色気を出しているオル。
「ごめんねオル、あの子達オル大好きになったみたいで…」
「まぁいいけど、俺も動物好きだし」
オルは魔法で体や服を綺麗にすると、乱れた服を整えた。ゴチでした。
落ち着いた二匹を車に繋いで、引っ張ってもらう。口を開けてへっへっと舌を出してる「ア(阿)」と、口を閉じて鼻をクンクンしている「ウン(吽)」。アーちゃんとウーちゃんで呼ぼう。
「これもニホンの神なのか?」
「神の使いみたいなものかな。正確にはニホンのじゃないんだけど、色々混ざっちゃってるからなぁ…でもこれでアジア圏の神様ならいけそうな気がしてきたぞ」
「よく分からねぇが、エンリの助けになるなら良かった」
だんだん風景が変わっていく。どうやら麦畑が広がっているみたいだ。
「らんらんらららんらんらん♪」
「急にどうした?」
「いやなんとなく。それよりアズマ帝国って、やっぱりミカドがいるの?」
「おう。王政と違うのは、元老院という場所があって、帝の独裁政治ではないという所か」
「元老院……権力にまみれた爺さんがいるわね」
「クラウスも言ってたが、なんかあるのか元老院って。基本三十代までの奴らが色々話し合う所らしいぞ」
「何ですって!?そんなん『町の青年団』で良いじゃない!!」
「よく分からねぇけど、治安は良い国だからって油断するなよエンリ。俺以外の男と話すなよ」
「それ無理でしょ…」
オルの独占欲とムニャムニャ欲の視線を受けつつ、国境の町に到着するのであった。
「おお!着物!着物だ!」
宿に馬車を預けて、私達は観光タイムだ。
ちなみに神馬は召喚しっぱなしで、申し訳ないけど宿で馬車の見張りもお願いしておいた。砂糖菓子で快く引き受けてくれたけど、そんなんで良いのかな……たくさんあげとこう。
国境の町は、西洋と東洋の文化が入り混じり、一種独特な雰囲気を出していた。アメリカにあるアジアンタウンみたいな、ちぐはぐな雰囲気。うん、嫌いじゃない。
「昔の日本っぽい!着物に近い服装が良い!何着か買おうかなぁ……」
「買ってやるよ、どれが良いんだ?」
オルは目立っていた。ついでに私も。
魔力の強い黒髪は、この世界でとても目立つ。一人でも珍しいのに二人もいるから、町の人達の視線は釘付け(はぁと)です。はぅ。
「なんか……目立ってる?」
「俺の顔は王都以外ではそこまで目立たねぇけど、エンリが可愛いすぎっからなぁ」
「はい?何言ってるの?オルでしょ目立ってるの」
「こんなオッサンのどこが目立つんだ」
青い瞳を瞬かせて私を見るオルは、どう見ても美形の美筋肉の美剣士にしか見えない。え?私がおかしいの?
「お二人のような美丈夫と可愛いお嬢さんのカップルなんて、そりゃ注目されますよ。はい、包みましたよ」
買った服を包んで持ってきてくれた店員さんは、呆れたように私達を見た。え?私も?
一着は着たまま歩くことにしたので、着ていた服も丁寧に包んでくれていた。良い店員さんだ。呆れられてたけど。
上は桜色の着物に臙脂色の袴、黒い編み上げのブーツを履いたら、ハイカラな感じになった。
ただこれ…
「ねぇ、なんでこれ横にスリット入ってるのかな…」
「民族衣装だろ?なんか意味があるんだろう」
長めの袴にはスリットが入っていて、下は紐で結んであるからバサバサしないけど、チラチラ太ももが見えてしまい、ちょっとエロい。
「これは襟が乱れた時に、手を入れて直せますよ」
「なるほど!そういう意味が!なんか違うこと想像しちゃいました。あはは」
店員さんのアドバイスに納得していると、「もちろん異性を誘惑するためでもあります」と笑顔で言われ、オルの火傷しそうな熱視線に晒されながら、宿に戻ったのでした。
…………任務中ですよ。
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