最強は騎士じゃなくて嫁かも説
オル視点です。
人を斬る感触に顔をしかめる。
迷ってはいけない。これを逃して次に襲われるのがエンリだったら……?
周囲の人間が気を失うほどの殺気を身に纏い、再び戦場へと身を移す。
そう。そこはまるで戦場だった。
大規模の盗賊討伐といことで、俺は駆り出された。事前の下準備も、盗賊の居場所も人数も、全て把握していたはずだった。
おかしい。
出発してから頻繁に魔獣が出現していた。行く場所に必ず魔獣が潜んでいて、睡眠時間は削られ、討伐メンバー達は疲弊していった。
俺は色々と規格外だから、雑用などを買って出てフォローしてきたつもりだったが、これはおかしいと気づいた時には囲まれていた。
「左陣はそのままに!俺が正面突破する!動ける奴は続け!」
全力で放つ身体強化の魔法で、十人ほどの吹き飛ばす。
「すげ…さすが最強…」
「これなら少しはもつかねぇ」
「きっついわー」
口々に言いながら、後に続く冒険者達。今のところ死者は出ていないが、それも時間の問題だろう。
俺は気の流れに乗せて双剣を振るう。奇襲のつもりなのか、脇からぶつかってきた盗賊を籠手で弾く。その籠手にはうっすら光る盾のようなものが出ていた。
「兄貴、それ反則っすよー」
「なんだそれ!ずるい!」
「なんかの術式付与ですか?」
騒ぎ立てるメンバーにうるせぇと怒鳴り、そっと籠手を撫でる。
これはエンリが作ったやつだ。
「羨ましかったら、エンリみたいな嫁をもらえ!」
「マジかー!エンリ姐さんの術式かー!」
「それ一生独身でいろって事っすよね!」
「ずるいっす!あのエロボディ独り占めずるいっす!」
とりあえず最後の奴は殺すと心に決め、再び敵に目をやると倒したはずの盗賊が起き上がってくるのが見える。
アンデッド化か……こりゃ、死人が出ると同時に敵が増えるな……。
「おい!半殺しでやっとけよ!」
マズイな。俺はいいけど、彼奴らがもたねぇ。
くそ……
悔しさで歯を食いしばった時、ふとエンリの匂いがした。
と同時に、青白い光が俺の前に現れる。
「人の子エンリの願いにより助太刀いたす」
「人の子エンリの想いにより助太刀いたす」
「タケとフツじゃねーか!エンリはどうした!」
群がるアンデッドに苦戦する奴らの手助けをしようとしたら、炎の壁に取り囲まれる。一瞬焼かれるかと思ったが熱くない。浄化の炎か。
「人の子はさらに神を召喚しておる、守りは万全だ」
「カグツチ!お前が来るのは珍しいな!」
「この状態を知ってたわけではないのだが、人の子が直感で我らを遣わした」
「くそっ、やっぱ俺には勿体ねぇくらいのいいオンナだ!」
タケミカヅチとフツヌシとは鍛錬仲間だ。お互いの戦い方をよく知っているため連携できる。
カグツチは浄化の炎でアンデッドを牽制し、人死にが出ないように努めてくれてる。
そしてシナトベにより、アンデッド化の元凶たる魔道具を発見。それを回収した後、丸一日かけて何とか事態は収まった。
「オル!!」
王都の入場門前にエンリの声が響く。
声の方を向くと、一生懸命走ってくるエンリの姿に、多くの男どもが振り返る。
やめろ。それは俺のだ。減るから見るな。
そのまま俺の胸に飛び込んでくるエンリ。戦いの後は魔法で綺麗にしたとはいえ、ここまで来るのに汗をかいている。汗臭いからと離そうとすると「やだ!いい匂いだ!」と俺の胸に顔をすりすりさせてきやがる。
おい、個室はどこだ。今すぐそこに行く。
「姐さん!助かりました!」
「助っ人送ってくれたそうで!今回マジ死んだと思いました!」
「一回触らしてください!」
やっぱ最後のやつ殺す。
俺がイライラしてるのを見て、エンリは「触ったら即死ですよ〜」とか言ってる。さすがよく分かってるな、俺の嫁は。
「エンリ、ありがとう。助かった。こっちは死人が出なかった」
「マイコさんから聞いて、嫌な予感がして……間に合って良かった」
涙目のエンリに、我慢できず目元に軽くキスをする。くすぐったそうに笑うエンリによからぬものが湧き上がってしまうのを必死で抑える。
ああ、可愛すぎるだろ……くそっ……
「それでねオル。後で話を聞くことになると思うけど…」
「ああ、ここに戻る途中、クラウスとケータイでやり取りした。準備が出来次第、隣国のアズマ帝国に向かう」
「オル……オル、私も連れて行って。足手まといかもしれないけど……頑張るから!」
何か覚悟を決めたようなエンリを見て、俺はなんだか嬉しくなって笑った。
「当たり前だ。俺たちパーティだろ?」
「うん!!」
まるで春の日差しのような笑みを浮かべて、俺に再び抱きつくエンリを抱きしめ返す。
そして俺は、この笑顔は絶対に守ると誓った。
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