ですわ縦ロールの襲来
「へ、へン、ヘンリエ……」
「ヘンリエッタ・ブルームですわ!」
「ヘ、ヘンリッタ……」
「ヘ・ン・リ・エ・ッ・タ!!!!」
「…………ごめんなさい」
「諦めますの!?」
やり取りをする中で、だんだん気持ち悪くなってきた。この人…香水がキツすぎる…おえ。
オルが縦ロールを押しのけてこっちに来た。
「エンリ!具合が悪いのか!?」
「オル、こっちに来ないで」
「エンリ!?」
絶望に彩られた顔のオルに、縦ロールがガンガン寄っている。気分が悪い。珍しくイライラする。
香水もやだ。縦ロールを避けないオルもやだ。もう知らない。
「オルフェウス様、こんな女放っといておきましょう。わたくしの屋敷に来ませんこと?美味しいお菓子もありますのよ?」
「エンリ、何でだ?何で俺を近づけない?」
縦ロールを無視して私に話しかけるオル。
そんなオルの泣きそうな顔に少し溜飲が下がる。側で見ていたクラウス君が笑うのを必死で我慢している。頑張れ。(後で殺されたくなければ)
「オル臭い。その縦ロールの香水がついてるから臭いの」
「なっ……!?」
雷に撃たれたかのように硬直したオルは、目を瞑ると魔力を発動する。クラウス君の笑いの発作が止まる。
「お、消臭の魔法。オルはそういう主婦みたいな魔法を器用に使うよな」
「消臭?もう臭くない?」
「おう、もう臭くないぞエンリ、ほら」
そう言ってオルは近づいてくると、私をキュッと抱きしめた。もう何を喜ぶのか分かっているオルは、上腕部の筋肉と大胸筋で私の顔を包むようにしている。
うむ。苦しいけど苦しゅうない。くんかくんか。
「……む、オルの匂いも消えた」
「なっ……!?」
再び雷に撃たれたかのように硬直するオル。再び笑いの発作に見舞われるクラウス君。
「な、なにそれ、オルってどんな匂いなのさ、ぷぷっ」
「オルはお日様と柑橘系の匂いがするの。安心するんだよ。ちなみにクラウス君は甘いベリー系だけど、私はそんな好きじゃない」
私の言葉に引きつった顔をするクラウス君に声をかけようとすると、硬直から復活したオルが私の腰のあった手を首に持ってきたから、びっくりしてオルを見上げる。
「え?なに?」
「エンリ、少し熱があるんじゃないか?」
「へ?」
別に普通だけどなぁ…って思ってたら、オルがいきなりキスしてきた。
ちょ、人前、むああ!舌を絡ませ……ふああ!!
「おい、お前ら…」
「な、な、な、な、何を、何をやってますのぉ!?」
人前で、しかもギャラリーの多い中、突然濃厚なキスシーンを見せつけられたら誰だってびっくりするよね!って、私も状況把握してる場合じゃない。
離れようにもオルの右手は後頭部を持ってるし、左手は腰へ置くという完璧な布陣を組んでいる。
オルの蹂躙は止まらず、膝がガクガクしてきた。こら!人の舌をちゅうちゅう吸うな!
「ん!んんん!」
オルの胸筋をペシペシ叩いて、やっと離れる事ができた。
「……ぷはぁっ!オルのバカ!エロ!イケメン!何考えてるの!」
「エンリが熱っぽいみてぇだから、熱測ってただけだろーが」
「どんな測り方だよ!」
たまらずクラウス君がつっこむ。いいぞ!頑張れクラウス君!
「あん?言ってたじゃねーか。『舌を舌で測れば正確だ』ってよ」
「医学を冒涜するな!『舌の下』だ!しかも使うのは体温計魔道具だろが!!」
「似たようなもんだろ?」
「「違うわ!!!!」」
私とクラウス君が盛大につっこみを入れる中、紫縦ロールが怒りのあまり顔を真っ赤にして、私に詰め寄ってきた。
「あなた!!い、一体なんですの!?わたくしのオルフェウス様に…この淫売が!!」
「……ああん?」
オルの纏う空気が一気に冷える。それを直接受けていない私でさえも恐怖するくらい。
私はインバイの脳内変換が遅れて、怒りのタイミングを逃してしまってすっかり出遅れてしまった。
後ろを振り返ると、クラウス君を見たこともない真剣な顔をしているのに驚いた。
「クラウス君?」
「エンリさん、これヤバイかも」
「ど、どういう事?」
「オルってさ、一人で巨大な邪悪竜を倒したことがあるんだけどさ、その時も怒っててね」
「ふむふむ」
「その倒した一撃で、山が無くなったんだ」
「すごいねオルは」
「その時と全く同じ殺気を放ってるんだけどさ」
「ほほう……
…………
…………
…………って、ヤバくね!?」
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ブクマ700件に夢オチの危険を感じます。
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