ありがちな異世界トリップ
本日2話目です。
少し戦闘描写があります。
気がつくと、そこは森の中でした。
私の名前は、森野えんり。三十六歳。独身。
派遣社員で某メーカーの事務やってて、同じ毎日を繰り返す日々。
そんな中での癒しは、最近ブームの大人でも読みごたえのある児童書。
中でも『銀髪の勇者シリーズ』は、かなりの人気があり、私は本だけではなくスマホに電子書籍をダウンロードするくらい大好きだ。
そんな特に何かした訳でもなく、ごく平凡な三十路半ばの女が、一体どうして…。
名は体を表すって言うけど、実際森にいなくてもねぇ?
森の(中の)えんり。なんつって。
「…って!やだ!どういう事!?」
無事、我(現実)に帰りました。(つらい…
手には新しい小説、コンビニの袋に缶ビール二本と枝豆。カバンには財布とスマホと充電用のバッテリー。
そして私は…森の中。
「意味分からん!」
叫んだってしょうがない。もしかしたら拉致されたとか…いやいや三十路半ばのオバサンをどうするっていうのよ。
う…なんか自分でオバサン呼ばわりしたら、結構傷ついた。
自分、面倒臭い。
「とにかく、森を抜けなきゃ。助けを求めて…」
内心の恐怖を紛らわせる為、独り言が多くなるのはしょうがない。
スマホを見ると圏外、バッテリー節約のため電源を落とす。
急にサバイバルの様相を呈してきたな…やだな、私はインドア派なのに…。
「こういう状況って、よく聞くけどありえないよね。ん?よく聞く?違う、聞いたんじゃない。ライトノベルとかでよく見たんだよ、こういう設定。異世界トリップ的な…」
喋りながら、血の気が引いてくるのが分かる。
「まさか、嘘でしょ?こんな事があったら、次はお約束の…」
グアアルルル……
前の方から、獣のような唸り声が聞こえる。きこえちゃった。
まじかー。テンプレもここまで来ると、笑うしかないかもなー。
ガルルグルルル……
草をかき分けて出てきたのが、体長三メートル程の……熊?
「死んだふり…は、ダメか。しかももう襲いかかる気満々だし…」
頭のどこかで冷静な私がいる。
おかしいな、私ってそんなキャラじゃないんだけど…
手に持つのは缶ビール。勿体無いけど命には変えられない。
今日はスーツだったけど、歩きやすいちょっとヒールのあるスニーカーなのが功を奏してる…はず!
「行く!!」
プルトップを引いて、思いっきり熊に向けて発射、そしてそのまま投げつける!
驚いて混乱する熊の様子は確認せず、そのまま猛ダッシュ!
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
走る。走る。
ひたすら走る。
事務仕事で緩みきった筋肉を酷使して、さらに走る。
「はぁっ、はぁっ、あれっ、おかしいなっ」
おかしい。
思ったよりも息が切れない。
足も軽いし、何だか飛ぶように走るイメージだ。
それでも、熊は諦めずに追いかけてくるんですけどね!
「うえええぇぇぇん!誰かあああぁぁぁぁ!!」
体力よりも、恐怖で色々限界になってきた。
怖い。怖いよ。
涙と鼻水で、うまく呼吸が出来ない。
も……限界……
「おい!そこのお前!こいつの気をそらすから、木に登れ!」
よく通る男性の声。
とにかく無我夢中で、近くの木に登る。木登りなんてやったことないけど、やるしかない。
ある程度登って一息つくと、声をかけてくれた男性が気になり下を見る。
ガアアアアアア!!!!
凄まじい咆哮が聞こえ、何か重い物が倒れる音がした。
「助かった…?」
手足の震えが止まらない。
そのまま木から落ちそうになり慌てていると、温かい手が背中を支えてくれた。
「もう大丈夫。よく頑張ったな!」
振り向くと、黒髪の短髪に青い瞳の男性。目が合うとニカっと笑顔になる。
これは…この方は…
「オル…フェウス…ガードナー…?」
死ぬ前に幻覚でも見たのかな。
それにしても思い浮かべるのが、家族じゃなくて二次元のキャラっていうのが、私らしいよね。
私はにやけ顏のまま、暗闇に意識を沈めていった。
とうとう手をつけてしまった異世界トリップ。
反省するけど、後悔はないです。
…ごめんなさいm(_ _)m




