ぶっちゃけました…
やらかしました…
オル様の視線が痛くて、血が出そうです。
元から小さいけど、さらに小さくなれるもんならなりたい私。そしてこの場から消えたい。あうう。
「えーっと。この雰囲気をどうにかしたいんだけど、まずは俺から確認するけどいい?」
口火を切ったのはオレンジ頭のイケメン魔法使い。
そう、彼もイケメンだ。オル様が野生的なイケメンなら、彼は正統派イケメンと言いますか。
彼…クラウスは『銀髪の勇者シリーズ』に出てくる、勇者と共に魔王を倒した魔法使い…のはずだ。
「だいぶ変わったかもだけど、面影はあると思うんだよね。そっちの俺も俺だったからさ」
「どういう事だよ」
地の底を這うような低いバリトンボイスのオル様。すごい怖い。怖いけど腰にくるバリトンボイスは大好物です。
ん?そっちの俺?
オレンジに近い金髪に、黄金色の瞳、整った顔に薄い唇……おや?整っているけど、なんか見覚えがある……?
ホントに、嘘みたいなイケメンだよねーあはははー
うっせ。ほっとけよ。気にしてんだよ。
「……宮田君?」
「そうそう。思い出した?」
「え!宮田君は高三の夏休みの時に亡くなったって聞いたよ!?」
「だから俺のは転生みたいなやつ。森野さんは異世界トリップってやつだろ?」
マジですか!宮田君は亡くなったけど、今はクラウス君として生きてるのか!
そんな非常識な…って、異世界トリップした私も非常識なんだけどさ。
「ああ、オル大丈夫だよ。彼女は俺の前世の同級生だった人だ」
「何が大丈夫なのか分からねぇ」
「色々不安だったんだろ?身元は俺が知ってるし、少なくともこの世界で害になる存在じゃないってこと」
「……そうか」
「ん?まだ何か不満か?」
「……なぜエンリは俺とお前のフルネームを知ってるんだ?」
「あ、それは俺も聞きたいかも!」
「あ、あはは、それはですね…」
私はもう、ぶっちゃけた。ぶっちゃけまくった。
元の世界で会社帰りに、こっちの世界に連れて来られたこと。
『銀髪の勇者シリーズ』本編の話のこと。
その本に出てくる登場人物にオル様とクラウス君が描かれていること。
その続編が出て『伝説の騎士』がメインの外伝だったこと。
人気投票ではオル様は三位だったけど私の中では一位だということ。
年齢的にも断然オル様推しで、その素晴らしい筋肉は褒めて讃えるべきだということ。
それはもう、小一時間ほど語り尽くした、いや、まだ語り尽くせぬ想いが…
「はいストップ!分かった!分かったよ!」
何かねクラウス君、まだオル様の良いところが五十項目ほどあるのだがね?
「エンリ、すまねぇ、俺が悪かったから許してくれ」
え、そうですか?
オル様、顔が真っ赤ですね。涙目が色気出してますね。
まぁオル様がそう言うのなら。じゃあ後日で。
「森野さん…エンリさんでいいかな?
つまり、その日本の本に俺達の事が描かれていて、それを読んでいたから色々知ってる…」
「うん…」
「なるほどね。それでそのステータスなんだ」
「うん…って、私のステータス見えるの!?」
慌てる私を見ると、オル様は調子を取り戻してニヤリと笑った。
「ああ、こいつ『世の理を全て見通す』みたいにカッコつけてるけどよ、単に覗き見スキルなだけだから」
「うるさいな!これで色々助かってるだろ!」
おお、これは『銀髪の勇者シリーズ』でお馴染みの、騎士と魔法使いのやり取り!
これで勇者が止めに入るって流れなのよね!ふおぉぉ本物だ!
「なんかエンリさんの視線が…」
「何でそんなに目が輝いてるんだよ…分からねぇ…」
そりゃ目も輝きますよ。芸能人に会えたファンの心境なんだもん…。
あ、ステータスを見れるって事は…うわわ、どうしよう、恥ずかしい!!
「どうしたエンリ!?何があった!?」
「え、いや、その…」
私のステータスを見たって事は、適正職業も…オル様の、パ、パートナーとか、そういうのも見られたってわけで…
クラウス君をチラッと見るとニヤニヤ笑ってる。くそう、そんな顔でもイケメンか。ムカつくな。
「おい、クラウスてめぇ、エンリに何をした」
「ちょ、待ってよ!俺は何も…エンリさん何もないよね!?」
「恥ずかしいの…見られた…ふえぇ…」
羞恥のあまり涙目になる私。怒りのオーラをまとうオル様。青ざめるクラウス君。ざまぁ。
「勘弁してよ!!」
クラウス君の悲鳴が王都に響き渡った。
ちなみに事態の収拾がつくまで、さらに小一時間かかった。
私は悪くない。
たぶん。
お読みいただき、ありがとうございます。