王都に到着からの誰だお前
時間かかりました…ぐぬぬ…
何と言いましょう。
まずは「いきなりお城がある!」と言ったら、王都への入口の門だと言われました。
すごく頑丈そうな高い壁が、ずーーーーーっと続いてて、王都をぐるっと囲んでるらしい。
ところどころ猛獣の爪跡みたいなのとか、わざと残しているらしい。それほどまでに激しい戦いだったと、後世に残しておきたいそうだ。
まぁ、そこら辺は『銀髪の勇者シリーズ』で読んだ……と言いたいところだけど、あれはあくまでも児童文学書だったから、戦いの描写とかはサラッとしか描かれてなかったな。登場人物の事ははすごく詳しく書かれていたけど。
だからオル様の好みとかもちろん覚えた。意外と果物とか甘いものが好きだとか。ムフフ。
そうそう。
ご心配に預かりました私のお尻事情ですが、あの例の召喚魔法で解決しましたよ!わーい!
『シナトベ』っていう風の神様は、可愛い緑の髪の女の子でした。しかも巫女服着てて、それも綺麗な緑色だった。巫女服。萌える。
風の力…風圧?で、お尻の下に風のクッションっぽいのを出してもらって、エアリーな乗り心地の馬車になりました。私ってすごい。あ、すごいのは風の神様なんだけど。
ちなみに、召喚魔法一回でMP10,000っていう数値からどれくらい減るのか、よく分かっていない。
オル様はそこら辺も、知り合いの魔法使いさんに聞いた方が良いと言ってた。渡りの神様は「がんがんいこうぜ」みたいなこと言ってたけど、そこはしっかりと押さえておかないとだよね。魔法を使いすぎると貧血みたいになるらしいから、自分の魔法の使用回数を知っておかなきゃだわ。
倒れた時にいつも誰かが助けてくれるとは限らないし。
乗合馬車は王都前の検閲所に止まった。ここが停車場らしい。やっと解放された!
同乗していた冒険者さん達に、なぜか生暖かい目で見送られる。何?何かあったっけ?…まいっか。皆さんどうもお世話になりました。
検閲所で駐在の兵士さんに、身分証代わりのギルドカードを確認してもらう。
名前と年齢とギルドランクしか載ってないカードだけど、犯罪歴も載るらしい。もちろん私は白い人間ですが何か?(ニッコリ
「オル先生、魔法使いさんには今から会うの?」
「先触れは出しといたが、返事がまだ来ねぇ。あんなんでも一応貴族だから、手順を踏んどかねぇと後が面倒なんだ」
「返事って?」
「あいつが開発した魔道具でやりとり出来るんだ。特定の人間と離れていても会話ができる」
「おお!携帯電話みたい!」
「ん?よく知ってるな。これは魔法使いが作った『ケータイ』っていう魔道具だ。高価だからほとんど出回ってないが、各冒険者ギルドには必ず置いてある」
なんですと?
『ケータイ』なんて、私の世界の言葉じゃないの?
「とりあえず、先に宿とっとくか」
「おまかせします!」
オル様の選んだ宿は、そんなに大きくはないけど食事が美味しいと評判らしい。
ログハウス風の造りで、木の香りとランプの柔らかい光が居心地良い雰囲気を出している。
こいつぁ夕飯が楽しみですなぁとニヤニヤしてると、オル様の懐から鈴みたいな音が聞こえてきた。
「あいつからだ、ここに来るって…また城を脱け出すのかよ…」
「城?」
「ああ、あいつ城勤めだから…ま、来るっつーんなら待つか」
オル様は苦笑して、宿の人に食事を一名追加してもらってる。なんだかんだ世話焼きさんだなぁ。
お城の魔法使い…オル様の知り合い…それって、もしかしてもしかすると…
煌めく太陽のようなオレンジの髪、黄金色の瞳
かの者は膨大な魔力を持ち、世の理の全てを見通すという
銀髪の勇者、救国の騎士と並び立つ……
「いよう!オル!久しぶりだなぁ!」
「クラウス・ドライ・エルトーデ!」
「「は?」」
しまった!また私やっちゃった!
教わってないフルネームを言っちゃうなんて、私は馬鹿か!馬鹿だな!こんちくしょう!
言われた本人は、黄金色の瞳をまんまるにして私を見た。本の挿絵と同じ顔で。
アワアワする私に、オル様は青い瞳を鋭く光らせる。
「エンリお前…!!」
「うわあああ!えんり!?森野えんり!?まじかよ!!」
……
「「はぁ!?」」