初めての…魔法?
ヒュン!……ヒュン!……
何か、風を切る音が聞こえる。
オル様はいない。私には二人分の毛布が使用されていた。
毛布でぐるぐる巻きにされている私は、何とか抜け出してテントから出…る前に、カバンから服を取り出して身支度を整える。
気を抜いちゃダメだ。しっかりしなきゃ。ここは私の生まれた平和な世界じゃない。
昨日みたいに、オル様に心配かけさせてはいけない。
そうだった。
私がここに来る前に、新刊にあった「魔王との大戦から十年後の物語」は、オル様に使命があって旅をしている……という感じだった気がする。
早く独り立ちしなくちゃ。オル様をこれ以上振り回したらダメだ。
それにしても…
ああ、続き読みたかったなぁ…あの本置いてっちゃったのかなぁ…
ヒュン!……ヒュン!……
なんの音だろうとテントから外を覗くと、オル様が朝靄の中で剣を振っていた。
何かに対して戦うことと想定しての剣だ。
流れるような二つの剣筋。そう、オル様は双剣使いだ。
『銀髪の勇者シリーズ』でも書かれていたけど、実際見ると本当にすごい。ガッチリとした筋肉からは想像出来ない繊細な剣の振り。呼吸も静かで、激しい動きなのに息を切らさず呼吸をゆっくり続けている。
実は私、通ってるジムで太極拳とか合気とかヨガとか、呼吸を意識して体を動かす事が好きで、まぁまぁ続けていた。
ま、素人に毛が生えた程度の実力しかないけど。
始めたきっかけはオル様の「流れるような剣筋」ってやつに触発されたとか、ちょっと恥ずかしいっすね。えへへ。
不意に音が止んだ。
「おう、起きたかエンリ」
「うん。おはようオルオル」
「…その呼び方やめろって」
テントから出ると、オル様が頭をくしゃっと撫でてくれた。むふー。
そうだ、私には昨日から火の番という大役が…
「あ!火が…」
「ああ、まぁしょうがねぇだろ。明け方雨が降ったしな」
すっかり消えてしまった火種を見て、ちょっと落ち込む。私の唯一の仕事が…
むむ?そうだ。昨日寝る前に考えてた「アレ」を試してみるというのは?
外だし、冒険者さん達はなぜか遠くでキャンプしてるし、これはチャンスかも!
「先生、ちょっとやってみても良いですか?」
「誰が先生だ。何をやるんだ?」
「これです」
イメージすればできるって言ってた。色々な本を読み漁ってた成果を今出すべし。
呪文って適当で良いのかな。イメージしやすくやれば良いよね。
えーと。火、火、日本の火の神…
手を合わせると、自然と魔方陣のような模様が地面に浮かぶ。魔方陣の模様は漢字だ。えーと。
【カグツチ】
漢字の一部を読むのが呪文だったようで。言葉を発すると同時に魔方陣が光って燃え盛る炎につつまれた男性が現れた。
赤い髪に赤い着物、前髪が長くて顔は見えない。どうやら彼が火の神カグツチのようだ。
「…呼んだか。何用だ」
「あ、あの、火種が水で消えて…火が欲しいんですけど…」
「……」
やばい。考えてみたら、神様をこんな雑用で呼び出すなんて罰当たりな事だよね?
あわあわしてたら、オル様が私を守るように私の前に立つ。
カグツチは無表情のまま手を広げると、消えた火種に向けると小さな炎を出す。パチパチと木が燃える音がして、火種が復活したのが分かった。
「…これで良いか」
「あ、は、え、はい!」
「…黒髪の騎士よ、我ら神は人を害すことはない」
「え、そ、そうか。悪ぃな」
「…良い。…また呼べ」
ボウっとカグツチ自身が一瞬強く燃えて消える。魔方陣も消えた。おおう、なんかすごいぞ。
「おいエンリ、危険が無いと分かってやっていたのか?」
「神様がやれって、呼んで欲しいみたいだって」
日本人は平和主義。日本の神様もそうだと…思いたい。です。
オル様は深くため息をつくと「まぁ、非常識はアイツで慣れたか」とつぶやく。え?アイツ?
「ごめんなさい!心配かけてごめんなさい!」
謝ろう。とにかく謝ろう。
「でも日本の神様は皆良い神様だから!たぶん!」
「あぁ、わかったわかった。この火で朝飯作るから待っとけ」
ああ、やっぱりオル様は良い人だ。
早くオル様の負担にならないようにしなきゃ。
生涯のパートナーとか…そんなの…オル様に迷惑かけるだけだもんね。
召喚魔法の使い方は分かったし、早く使いこなして一人で生きれるように頑張ろう。
まずは、それからだ。
ブクマが増えてる!
いつもお読みいただきありがとうございます!
コソコソ書いてましたが、とうとう友人に公開します。ドキドキです。




