1 出会い
空に叫べば。
雲の向こうのあの人へ。
届いてくれるかな。
伝えたかった言葉。
どうして。
どうしてあの時伝えなかったんだろう。
こんな気持ちになるくらいなら、出会わなければよかった。
そうだ。悪いのはあなた。
ずっと一人でいた私の心の中に土足で入ってきた…。
ねえ、会いたいよ。
私の言葉に。
空は風で返事。
1 出会い
照りつける初夏の太陽の光を遮るように伸びる葉っぱが、綺麗な木漏れ日と夏なのにちょっと涼しい理想的な場所を作ってくれている。
森はいい。
嫌なこととかを見なくてすむ。忘れてしまえる。
木々のさざめきや、小鳥のさえずり。リスやうさぎ達が駆け回っている姿を見ているとまるでこの大好きな場所に受け入れられているような。そんな気がする。
都会は苦手だ。
常に時間に縛られて、人に縛られて、規則に縛られて。
あのコンクリートに囲まれた世界には温かみがない。
自然として生きている営みがないあの場所が、私はどうしても苦手だった。
「っんーーーーー!」
大きく息を吸い込んで大きく伸びをする。
私の家はこの森にある一軒家だ。
ログハウスといえば想像出来るだろうか?あの丸太を組み合わせて作ってような家である。
住んでいるのは私だけ。お母さんは分からないし、木こりだったお父さんも五年前に病気で他界してしまった。
木こりなんて職業は今どき儲からないのだ。だからろくに治療を受けることもできずに亡くなってしまう。
「まあ…そんなお父さんのこと、嫌いじゃなかったけど、ね。」
あの一人娘を育てているには少し歳を取りすぎている父親の、木を切るゴツゴツとした手で頭を撫でられるのが、私は大好きだった。
そんなお父さんの口癖はいつもこれだった。
「咲花、後で後悔しないように。その時その時を大切に生きろよ。」
多分お母さんのこととか色々なことからきてる口癖なんだと思う。でもその言葉の通り、最期は満ち足りた表情で亡くなった。
お父さんにはコンクリートの世界でお金をたくさん稼いで寿命を伸ばすより、自分の好きなとこで好きな仕事をしながら、自然に亡くなるのがあっていたんだろう。
かく言う私も、今はシンガーソングライターなんかの真似事をしている。
儲けなんて全然ないし、生活も豊かと言うには質素過ぎるけど、私は満足している。
この木や花に囲まれた世界で自分の好きな曲を作りながら、たまに近くの町へ言って披露する。
スタジオやライブハウスとかじゃないただの路上ライブだけど、月に5回くらい歌って、弾く、それだけで満足だった。
予告なんてないゲリラライブみたいなものなのに、毎回来てくれる人もいる。だからライブを終える頃には、置いている帽子は結構いっぱいになっていたりする。
十分に充実していたし、やりたいことをやっているのだから楽しい。
毎回聞いてくれる人たちの中には私にオーディションのこととかを教えてくれる人もいるけど、今の私にはまだ実力不相応だろう。
「〜♪」
今日は日曜日、元々ちゃんと働いてなんかいないけど、この日くらいは休んでもいいよね?
今私は家にかざるための花をつんでいる。初夏という季節は綺麗な花がたくさん咲くのだ。
アジサイにハナショウブ、スイレンやハス。
この鮮やかな花々が私はとても好きだった。
「あ!百合の花!」
白や黄色、ピンク赤にオレンジの可愛らしい花が、森に美しい絨毯を引いている。
もっと近くでよく見ようとしてしゃがんだまま近づいていく。
「綺麗…。」
香りをかごうと端にある花に手を伸ばす。
グシャッ
今手を伸ばしていた黄色の百合が、突然現れた足に踏み潰された。
「え?」
「あちゃあ…どこ行っちゃったかなあ。」
突然のことに唖然として上を見上げると、そこには何かを探すように目の上に手をかざしてキョロキョロとしている男がいた。
「なっ…なっ…。」
いきなり現れて花を踏み潰した男は足元にいる私に気づきもしていない。
「参ったなあ…どこ行っちゃったんだろ…。」
「ねえっ!」
「うぇっ?!」
奇妙な声をあげて男が飛び上がる。そしてまた後ろの百合を踏み付けてしまう。
「足元!!花!百合!」
「えっ、えっ、ええ?!」
私が足元のことを指摘する度にその男はたたらを踏む。フラフラと踊りを踊っているようだった。
そしてついにはバランスを崩して倒れてきた。私の上に。
「きゃあっ?!」
「うおおお?!」
百合を撒き散らして私達は倒れ込む。
「っつー…背中うったあ…。」
背中をしたたかに打ち付けたらしい。アザとかにならないといいけど。
そこまで考えてから起き上がろうと上を見る。
超至近距離に男の顔があった。
「?!?!」
つまり、私がしゃがんでいた状態から後ろに仰向けに倒れて、その上に被さるようにこの男が倒れてきた。
…簡単にいえば押し倒されている。
「〜〜〜〜〜っ!!」
「うおっ?!痛い痛い!!叩かないで引っ掻かないで!なぐryオブゥッ」
咄嗟に腕を振り回したら男の顔にこぶしが入ってしまった。たまらず後ろに仰け反り、私の上から転がり落ちる。
「フーッフーッ!!」
「待って!ウェイト!落ち着いて!!これは事故だ!」
男がなにか言っているが頭に入ってこない。
お父さん以外の男と手すら繋いだことないのに…汚れちゃった…。
「ううぅっ…。」
「今度は泣き出した?!え、えーどうすりゃいいんだ?!」
「…取ってよ。」
「え?」
「責任…取ってよ。」
「責任?!」
「私の純血汚した責任取ってよ!!!」
「汚してねえよ!!!」
・
・
・
「落ち着いた?」
「汚されちゃた…汚されちゃったよぅ…」
「まだ言ってんのか!!」
こうなったらもう意地でもこの男には責任をとってもらおう。具体的には…あんなこととかこんなこととか…?
「ほい。」
「ひゃいっ!?あ、あのふつちゅかものですがよろしゅくおねがひっいたっ!」
「何やってるの…。」
思いっきり舌噛んだ…痛い…。
「ほら、これ。」
「え?」
ここで私は初めて男の方を見た。こっちにかがみ込んで何かを差し出している彼は、身長は170cmくらい。ベージュのニット生地のシャツに下は少し緑がかったチノパン。すらっとして利発そうな精悍な顔立ち。髪は黒で首元くらいまで伸びている。
そんな彼が差し出してきたのは、
「花輪…?」
「最初に怒ってたのって、俺が百合の花踏みつけちゃったからだよね?だから…これ。」
「あ、…。」
そう言って彼が差し出してきたのは散らされてしまった色とりどりの百合で作った、花の輪っかだった。
「まあこれくらいで許してもらえるかか分かんないけど、とりあえずこれはあげるよ。」
そう言って彼は私の頭に花輪をのせた。
「っーーーーー!」
なに?胸が急に…苦しい。締め付けられるみたいな…。
「俺は海人。君の名前は?」
「…咲花。」
「咲花か。よろしく、悪かったね。色々と。」
「うん…。よろしく…。海人。」
「なんでそんな小声?」
「ッーーー!!うるさいうるさいうるさい!!」
「なんで?!?!」
これが私と海人の、運命の出会いだった。
初めまして。樹と申します。僕は普段作曲をしているのですが、その中の一曲を元とした小説を書いてみようと思い、今回投稿をさせていただきます。
拙い文章になるとは思いますがどうぞ宜しくお願い致します。
更新通知や、執筆してる小説等について呟いています。良ければ遊びに来てください!
Twitter @ITSUKI_honaka




