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童話

冷たい王子様

 「ひだまり童話館」の第5回企画「ひえひえな話」の参加作品です。


 あるところに、とても冷たい王子様がいました。(のろ)いをかけられた王子様は、あたりを冬のように変えてしまうのです。

 王子様も生まれたときは他の子と同じだったのです。しかし大きくなると(のろ)いの力が強くなり、今では王子様だけが(はな)れた場所に住んでいます。あまり人が来ることもない場所で、王子様は氷と北風だけを友達に(さび)しく暮らしています。

 どこかに自分と一緒(いっしょ)に暮らせる人はいないものだろうか。王子様は、そう思いながら大きくなっていきました。


 王子様が大人になったとき、王様が国を出て行くように言いました。

 実は、王子様が生まれたときに、魔法使(まほうつか)いが予言したのです。王子様は、この国では幸せになれない。どこか別の土地で王子様を愛してくれる人が見つかるだろう、と。

 そこで王子様は、王様がつけてくれた家来達と共に、長い旅に出ました。


 王子様は、馬や馬車に乗ることはできません。あたりを氷づけにしてしまう王子様に、馬が近づけないからです。そこで、馬に乗った家来達と旅に必要な荷物を積んだ馬車が、王子様から(はな)れて進みます。

 王子様が通ると道が(こお)ってしまうので、家来達と馬車が先に行きます。そして後から一人、王子様が歩いています。

 大勢の家来達が(にぎ)やかに旅する中、いつも王子様は一人だけでした。立派な家来達と大きな馬達、そして光り(かがや)く馬車。それらが進む後を王子様が歩いていくと、そこには氷の白い道が生まれていきます。

 王子様は、家来達と話をしたり(かた)を並べて歩いたりしたかったのですが、それはできません。宿に()まると建物ごと(こお)るので、いつも野原にテントを張って(ねむ)ります。そんなとき、テントや食事の用意をした家来達と少しだけ話すのが、王子様の数少ない楽しみでした。



  ◆ ◆



 北の草原を何ヶ月も旅をしていくと、一つ目の国に着きました。そこには、(のろ)いをかけられた王女様がいると言います。王子様と家来達は、王女様に会いに行くことにしました。同じ(のろ)いがかかった王女様なら、王子様を愛してくれるかもしれないからです。


 王女様は、お城から(はな)れた建物で一人暮らしていました。やはり、何かの理由で他の人とは一緒に暮らせないようです。王子様は、もしかしたら自分の気持ちを理解してくれるのでは、と思いながら王女様のところに向かっていきます。


 王女様がいる部屋は、少し変わった場所でした。いくつもの(とびら)の向こうにある部屋は、窓に(あみ)が張られています。そして王女様も変わっていました。王女様は腕輪(うでわ)(くさり)を着け、(くさり)の先には大きな重りがあります。

 何と、王女様は風より軽くなる(のろ)いをかけられていたのです。そのため、(くさり)が無いと空にふわふわと()い上がってしまうのです。それどころか、人が近づいただけでも飛ばされてしまいます。

 (さび)しそうな顔をした王女様は、王子様とお話をしたいようでしたが、それも難しいことでした。なぜなら、王子様の近くにはいつも冷たい北風が()くからです。これでは、(くさり)があっても王女様はじっとしていることができません。

 王子様は、遠くから王女様に挨拶(あいさつ)をしただけで、去っていくことになりました。



  ◆ ◆



 東の大きな森を何十日もかけて()けていくと、二つ目の国に着きました。そこにも、(のろ)いをかけられた王女様がいるそうです。王子様と家来達は、今度も王女様のところに向かいました。


 この王女様は、普通(ふつう)にお城に住んでいました。しかし、他の人とは会わないようにしているらしいのです。王子様は、どうしてだろうと不思議に思いながら、王女様に会いに行きました。


 王子様がお城の中に入ると周りが(こお)ってしまうので、王女様と会うのは庭に張ったテントになりました。立派なテントの中は氷と北風でとても冷たくなっています。そのためでしょう、お付きの人が担いだ輿(こし)に乗って現れた王女様は毛皮の服をたくさん着込(きこ)んでいました。

 王子様は王女様に語りかけますが、なかなか返事が(もど)ってきません。それもそのはずです。王女様は、とてものんびりした人なのです。これは、王女様にかけられた(のろ)いのせいなのです。ですが、あまりにのんびりとしているため、一言話すだけで日が暮れてしまいます。

 どうやら、輿(こし)に乗ってきたのも歩くのがとても(おそ)いからのようです。王子様は、なんとか仲良くなろうとしますが、挨拶(あいさつ)だけで一日が終わってしまうようでは、とても一緒(いっしょ)に暮らすことはできないでしょう。

 王子様は、今度も残念に思いながら去っていきました。



  ◆ ◆



 南の山を長い苦労と共に()えていくと、三つ目の国に着きました。ここにも、(のろ)いをかけられた王女様がいるのです。王子様と家来達は、三度(みたび)、王女様に会いに行くことにしました。


 この王女様は、大きな湖の中の小島に住んでいました。そこには石だけでできた建物があります。王子様の家来達は船で小島に(わた)りますが、王子様は一人で湖を(わた)っていきます。王子様が進むと周りは(こお)るので、船が無くても(わた)ることができるのです。


 小島にいる王女様は、水着のような小さな布を着けただけの人でした。それを見た王子様は、(はず)ずかしさに顔を赤くしながら近づいていきます。

 王子様は歩きながら、何となく石の建物の中が暖かいような気がしていました。王子様が暖かさを感じるなど、まだ小さくて(のろ)いが強くなかったとき以来です。そうです、王女様にかけられた(のろ)いは王子様と反対のものだったのです。

 王子様が近づくにつれ、石の建物の中はどんどん暑くなっていきます。もう、出来立てでアツアツの料理を出されたときのようです。あまりに暑いので、王子様の家来達も王女様のお付きの者達も、遠くから(はな)れて見守るだけです。

 王子様は、この王女様なら(のろ)いを乗り()えて自分に近づけるのでは、と思いました。それは、王女様も同じだったようです。王子様と王女様は、(かがや)く笑顔を(たが)いに向けながら歩み寄っていきます。

 しかし、突然(とつぜん)爆発(ばくはつ)が二人を引き(はな)しました。熱い空気と冷たい空気、その二つが急に混じりあったとき、まるで大砲(たいほう)のような大きな音と共に大爆発(だいばくはつ)が起き、石の建物が()れて(みんな)(たお)れたのです。どうも、二人の(のろ)いが反発しあったようです。

 これでは、とても一緒(いっしょ)に暮らすことはできません。王子様は名残惜(なごりお)しく感じたまま旅立ち、王女様も悲しげな顔で見送りました。



  ◆ ◆



 西の砂漠(さばく)を長い長い旅をして横切ると、四つ目の国がありました。この国にも(のろ)いをかけられた王女様がいるそうです。そこで王子様と家来達は、この王女様にも会いに行くことにしました。

 長く当てのない旅、そして砂漠(さばく)()えたためでしょう。王子様は少し(つか)れていました。王子様は、自分自身の(のろ)いだから我慢(がまん)できます。でも、共に旅している家来達は、とても(つら)いだろう、と王子様は思いました。

 幸い家来達は長旅でも笑顔のままですし、旅に必要なお金や物も充分(じゅうぶん)にあるようです。王子様は、父である王様が大金を持たせてくれたのだろう、と感謝しながら王女様の下に向かいます。


 この国の王女様は、昔の王子様のようにお城から(はな)れた建物に、一人で暮らしているそうです。なぜか大歓迎(だいかんげい)をする王様や王妃様に案内された王子様は、一人で王女様の下に向かっていきます。

 お城から(はな)れた建物に近づくと、王子様は(なつ)かしさを感じました。そこは、冬のように冷たい場所だったのです。そう、一人で暮らす王女様は、王子様と全く同じ(のろ)いの持ち主だったのです。

 どんなに王子様が近づいても、王女様の笑顔が(くも)ることはありません。王子様はとても冷たい空気を(まと)いながら、でも、とても温かな気持ちになっていきます。それは、王女様も一緒(いっしょ)のようです。ついに、王子様は自分の気持ちを本当に理解できる人に(めぐ)り会えたのです。

 もちろん、王子様の両親や家来達も、王子様を心配してくれます。でも、王子様は心配されるよりも、同じ気持ちで同じ場所にいてくれる人に会いたかったのです。それは、王女様も同じだったのでしょう。二人の目からは、感激の(なみだ)がこぼれ、それは一瞬(いっしゅん)にして(こお)りつくと床に転がっていきました。



  ◆ ◆



 王子様は王女様と結婚(けっこん)しました。そして、二人で西の砂漠(さばく)の近くに住むことになりました。

 実は、王子様の家来達は、王子様が歩くのにつれて出来た氷を売って、旅のお金にしていたのです。家来達は、王子様と王女様の(のろ)いがあれば、砂漠(さばく)を豊かな土地に変えることができると言います。

 王子様と王女様は喜びました。それに、王女様の両親である王様と王妃様もです。これなら、二人の(のろ)いを活かして暮らすことができます。相変わらず他の人の近くにいることはできませんが、それでも(たが)いに支えあう人がいて、(みんな)の役に立つこともできます。それは、王子様と王女様にとって、大きな大きな喜びだったのです。


 長い時をかけて、豊かな緑に包まれた小さな国が、砂漠(さばく)だったところに生まれました。そして、王子様と王女様は王様と王妃様になり、たくさんの子供達に囲まれて過ごしました。

 そして仲良く暮らす二人のところには、遠い国からの知らせも届いていました。王子様が旅した三つの国の王女様達も、自分と同じ(のろ)いを持つ王子様と結婚(けっこん)していたのです。


 ふわふわ飛んでしまう王女様は同じく空を飛ぶ王子様と結婚(けっこん)し、国の役に立っているそうです。長い(なわ)をつけて空高くに上がり、お天気などを教えると国の者も大喜びなのです。

 のんびりした王女様は、おなじくらいゆっくりした王子様と結婚(けっこん)しました。他とは(ちが)う時間で生きるせいか変わらず若い二人のところには、世界中の魔法使(まほうつか)いが長生きの研究にやってくるそうです。おかげで、二人どころか国まで大繁盛(だいはんじょう)なのです。

 そしてアツアツの王女様は、やはり燃えるように熱い王子様と結婚(けっこん)しました。こちらは氷に包まれた山々を、畑や牧場ができるように変えているそうです。


 元の王子様、砂漠(さばく)を緑に変えている王様は、めでたい知らせに明るい笑みを()かべました。その横には、寄り()微笑(ほほえ)む王妃様もいます。

 二人の間にはとても冷たい空気が流れていますが、それも砂漠(さばく)の近くでは心地よいくらいです。そのためでしょう、二人から少し(はな)れた場所ですが沢山の笑顔が(あふ)れています。


 冷たい王様は冷たい王妃様と一緒(いっしょ)に、今日も温かな笑顔を広げるため、若く新しい国を冷やしています。でも二人がいくら冷やしても、新たな国からは期待に満ちた熱気が消えることはなかったそうです。



   お し ま い


 お読みいただき、ありがとうございます。


 下記のリンクは、今回の企画ならびに前回までの企画の参加作品を検索した結果です。「小説を読もう!」の「小説検索」に該当キーワードを入力した結果が表示されます。

 よろしければ、ぜひご覧になってください。


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[一言] 楽しく拝読させて頂きました。 三人目までの王女様たちとの、寂しいけど呪いのせいで離れざるを得ないという儚い関係性が魅力的でした。 みんな似た者同士で幸せになるという結末とも合わせて、やん…
[一言] 失礼を承知で言わせて貰うならば…… 個人的には、後書きがメインです!! そこで、凄い!!!って思いました。 もちろん本文も楽しませて頂きました。 古典童話に本当にありそうな設定、でも、捻り…
[良い点] これは、アンデルセン童話のような、おとぎ話のような、楽しさですね! 三人目のお姫様で、めでたしめでたし、と思いきや、まさかの大爆発! これにはおどろきました。 正と負、陰と陽、明と暗は永…
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