春の訪れと来館者
お待たせ致しました。ようやく本編となります。
拙い文章ではございますが、どうぞお楽しみください。
寒さの厳しい冬が終わり、様々な種類の草花の香りが香り始めた、春の日のことです。
古都ストーリア。そのほぼ中心に位置する図書館。『綴魔法図書館』では、今代の『綴』である二人の姉妹が、会館の準備をしていました。
図書館といっても、この図書館は本を読んだりするだけというわけではありません。
一階のロビーで、『綴』は代々音楽を奏でたり、喫茶店を経営したりしてきました。
今代の『綴』もこのロビーを使い、レストランを開いて様々な料理を人々に振る舞っていました。
「うん。これでよし!」
料理の仕込みをしていたのは、姉の紬でした。
人生を綴る『綴』。すなわち、人生を、本にするのが彼女の役目なわけですが、毎日のように本を作っているわけではありません。
普段はこうやって朝から、レストランで出す料理の仕込みをしています。
「おーい、栞。こっちは準備できたよ」
そう、紬が奥に声をかけると返事が返って来ました。
「わかった。こっちもそろそろ終わるわ」
奥の本棚の辺りで作業をしていたのは妹の栞です。
本の声が聴くことの出来る『綴』である栞は、毎朝こうやってこの図書館にある蔵書のチェックを行っています。
この図書館にあるのは、何も人生が綴られた本だけでなく、その他にも製薬や建築、武具の製造に関する本まで、たくさんの本があるわけですから、一人でそれらを管理することは骨が折れるというものです。
ですが、そこは流石というべきか。本の声を聴くことの出来る彼女は、感覚的にどの辺りにどの本が置いてあるのかがわかるのです。ですので、配置のおかしい本があれば、その本がどこにあるのかがわかるため、こうやって一人で蔵書の管理ができるというわけです。
元々2人は、極東と呼ばれる地域で暮らしていました。そして、もっとたくさんの文化に触れるために、故郷を出てこの地に移り住みました。
今では、この都市の人間として、立派に『綴』としての役割をこなしています。
「お待たせ、姉さん」
作業を終えた栞がホールに出てくると、既に準備を終えた紬の姿がありました。
「お疲れ、栞。じゃあそろそろ開けようか」
そう言うと、紬は入り口の鍵を開けました。
栞も、紬が開けたドアから看板を出すために、外に出ようとして…、
「おはようございます! ってうわぁ!?」
「きゃぁ!?」
まるで会館をドアの前で待っていたようなタイミングで。と、言うより実際に待っていたのでしょう。飛び込んで来た一人の少年とぶつかってしまいました。
「いたたたた……」
「ちょっと栞、大丈夫?」
「わぁ!! ご、ごめんなさい!!」
急いで駆け寄る紬と、栞とぶつかった少年。
「えぇ、大丈夫よ。気にしないで」
そう言って栞は立ち上がりました。怪我はないようです。
「それで君は?」
紬が問いかけます。
「えっと、この図書館から、僕を選んでくれた本が見つかったと手紙をいただいて。それで、いても立ってもいられなくて、朝から入口で待ってました!」
どうやらこの少年、本当に入口でまっていたようです。
グゥ~
「あっ!!」
「あらあら……」
「へぇ~……」
どうやら少年のお腹の音のようです。
「ねぇ、君。朝ごはんは食べてきたの?」
「それが、食べずに出てきたので……」
紬の問に少年は申し訳なさそうに答えました。
今は朝の10時。一体この少年、何時から外で待っていたのでしょうか。
「しょうがないなぁ。ちょっとこっちのテーブルに座ってて」
「へ?」
「へ? じゃあないよ。朝ごはん、簡単なものになるけど作って上げるから。栞、話し相手でもしといてくれる?」
「わかったわ」
「いいんですか!?」
「あり合わせだけどね。待ってて、すぐ作ってくるから」
そう言うと、紬は厨房の方に行きました。
(一体、この少年はどんな冒険をするのだろう)
そんなことを考えながら、紬は少年の朝食の準備をするのでした。
今回は第一章のプロローグのようなものです。
少年は一体誰なのか、『綴』が作る本とは一体どういうものなのかは、次回わかることとなると思います。
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これからも、よろしくお願い致します。