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窃視

作者: 差簿楊

 視線は温度を持つと言ったのは、誰だったのか。

 内腿に注がれている視線の温度を感じて、目覚めた。

 目覚めたという言い方は、ちょっと違う。

 夢の世界から現実のこちらの世界に、意識が戻ってきたと言った方が正しいかもしれない。


 夏休みのグループ課題の相談をしているうちに、うたた寝してしまったらしい。

 テーマを決めようと、親友のユミ、幼馴染のヨータ、ヨータの親友のコウスケと私の4人で、ヨータの家に集まったのだ。

 脱線しまくって、テーマは決まらないまま。そのうち眠たくなってきたところまでは覚えている。

 やけに静かだ。たった一人、視線の主の気配を除いて、他の人の気配は全くしない。

 視線は、依然として、むき出しの内腿から動かない。

 私は、目覚めたことを気付かれたくなくて、不自然にならないように注意を払いながら息を殺す。


 視線の主は、誰だろう。

 視線の主に、私はどんな姿で映っているのだろうか。


 心臓が、いつもの3倍のスピードで拍動していて、息苦しい。

 酸欠で倒れちゃうんじゃないだろうか。

 苦しくて、もう、限界・・・と覚悟を決めたとき、顔のすぐ近くで、空気の動く気配がした。

 視線は、内腿、お腹、胸、鎖骨へと、徐々に、徐々に、ゆっくりとあがってくる。


 そして、その視線がついに唇に注がれる。

 私は、表情を変えないようにと、顔の筋肉の動きを止める。


 唇に、視線だけではないフィジカルな気配がし、その次に起こることに予感めいた期待を感じる。

 緊張が高まり、息苦しさも、心臓の拍動も最高潮になる。


「バタン」


 玄関からのドアの開く音とガヤガヤと数人のにぎやかな声が、高まりきった緊張を破った瞬間、


「お前、いつまで寝てるんだよ、いいかげん起きろっ」


と、顔のほんのすぐ近くで怒鳴られて、バシンと頭をどつかれた。



***************************



 うるさいっ!


 学校の宿題をするといって、お兄ちゃんの友達が和室に集まっている。

 でも、ちっとも勉強する気配はなく、どうでもいいおしゃべりばかりで騒がしい。

 文句を言いに行ってやろうと思っていたら、急に静かになった。

 みんな帰っちゃったのかなと、様子を見に行くと、ヨーコちゃんが大の字になって寝ていた。

 そのすぐ横に、お兄ちゃんがぼーっと立ってる。


 お兄ちゃん、何してるんだろう?


 よくよく見てみるとお兄ちゃんの視線は、ヨーコちゃんの脚の間。

 ちょっと!ヨーコちゃんの寝ている隙に、パンツを盗み見してるの!?

 慌てたけど、スカートじゃないから、パンツは見えなくてギリギリセーフ。

 って、そんな場合じゃない。

 お兄ちゃんが、ヨーコちゃんに変なことをしないように止めに行かなきゃ。

 近づいた時に、気付いた。

 ヨーコちゃんは、実は起きているってことに。

 すごく不自然な息遣い、そして、赤い顔。

 なんで、寝たふりをしているんだろう。

 起きているのなら、自己責任ってことで止めにいかなくてもいいのだろうか。

 考えているうちに、お兄ちゃんが怪しい動きを始めた。


 お兄ちゃんは、ゆっくりとしゃがむとヨーコちゃんの口に何かをいれようとしている。

 なんだろう、なんだか気持ち悪い、見たことが無いようなもの。

 虫?動物?未知の物体?カテゴリーさえ、よくわからない。

 それに、あの人、本当にお兄ちゃん?

 顔はよく似ているけど、表情とか雰囲気が全然違う。

 誰? あれはいったい誰だろう?

 言いようがない恐怖に、ゾクゾクと肌が粟立つ。


「バタン」


 玄関からのドアの開く音とガヤガヤと数人のにぎやかな声が、高まりきった緊張を破った瞬間、


「お前、いつまで寝てるんだよ、いいかげん起きろっ」


 といって、お兄ちゃんとよく似た顔の別人は、その見たことがない物体をヨーコちゃんの頭の中に叩き入れると、私の方を向いてニヤリと笑って消えてしまった。


 アイスを抱えて戻ってきた本物のお兄ちゃんやユミさん、コウスケくんの3人のいずれにも、もちろんヨーコちゃん自身にも、今もなお、このことを話せずにいる。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 実に怪談好きのツボを抑えた話だと思います。 なんともいえない奇妙な出来事の不気味さに味があります。 タイトルも意味深で、小説形式で恐怖を出すという意味でも優れているのではないでしょうか。 …
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