永遠のスランプ
姉ちゃんを唸らせるようなダジャレネタ・ギャグネタを作るべく、俺は毎夜アイデア帳とにらめっこしている。
…………。
あくまでも「にらめっこ」である。残念ながら筆は全く進んでいない。何のノルマもないというのに妙な焦燥感がある。
元々、宿題の合間の息抜きのつもりで始めたネタ作りだが、いつの間にやらこっちの方が本職になってしまっていた。──で、気分転換に宿題をやる。不思議なことに、こんな時の宿題はちっとも嫌じゃない。
おかげで、俺の成績は国語を筆頭にグングン伸びている。やるじゃん、俺。
いや、この分だとまだまだ伸びる。ネタ作りがスランプに陥っているせいで、むちゃくちゃ宿題がはかどってしまうのだ。もしかしたら、永遠に無縁と思っていた「予習」というものにまで、手を伸ばすことになるかも。
ただ、本心を言えば、やっぱり不本意だ。俺としては成績が上がるより面白いネタを作れた方が嬉しい。早くこのスランプから抜け出したいものだ。
原因はわかっている。
このところ「コンビニ油揚げ」という、何の発展性もない言葉が、常に頭の中をうろついているのだった。何を考えていても唐突に浮かんでくる。おかげでいいネタがちっとも思いつかない。
わかってはいるんだ。「コンビニ油揚げ」をどう料理したところで、つかみにもならないし、オチにもならないということぐらい。
憎らしきは「コンビニ油揚げ」。いやまったく。実につまらない。つまらないのにネタには詰まる。どうしよう。
考えた挙句、俺はアイデア帳の貴重な一ページを消費して、「コンビニ油揚げ」とデカデカと筆ペンで書いた。敢えて一つのネタとして認めてやることで、ケリをつけてやったのだ。もうこのネタはこれで終わり。
おお、なんだかスッキリした。
それにしても手ごわい相手だった。なんであんな言葉思いついちまったんだろう。せめて「ゾンビに油揚げ」なら、面白いかどうかは別として、すぐにネタ化できたんだけどな。
例えばこんな感じで。
サークル仲間とオートキャンプ。夕食はバーベキューだ。仲間たちは焼き上がった肉をパクパクとうまそうに食べているが、あいにく俺は肉が大の苦手だ。肉を焼く網の片隅で、地元特産の特大の油揚げをこんがりと焼く。焼き上がった油揚げを自前の瀬戸焼の皿に置き、大根おろしと刻んだネギをたっぷりと乗っけて、さあ、食べようとしたその時!
「ウワアアア!」
突如として悲鳴が起こった。──何だ? 何があった? あっ、何だ、あのゾンビのような……いや、ゾンビそのものじゃないか。
ミイラのような姿のおぞましい化け物が不気味なステップでこっちにやってくる。意外に速い。そういや、この辺り、土葬の風習が残ってたな。
げっ、俺の方に向かってくる。それも一直線だ。
「うわっ!」
間一髪でゾンビの体当たりをかわす。だが、ゾンビの伸ばした手が僅かに油揚げの乗った皿をかすめていった。
ガシャーン! 瀬戸焼の皿が弾き飛ばされ、地面に叩きつけられて粉々になる。
そしてゾンビは、なぜか俺の油揚げを拾い上げ、いずこかへ去っていったのだった。
これぞまさしく、「ゾンビに油揚げ。皿割れる」。
あーあ、油揚げはともかく、皿は勿体なかったな。あの「瀬戸物」、徳利とお猪口と皿の「セットもの」だったのに……。
…………。
やはり「ゾンビに油揚げ」も、大したネタにはなりえなかったようだ。どこかに「『ゾンビに危なげ』なく対処」という言葉も入れたかったが、無理だった。
まあいい。駄ネタのことは速やかに忘れよう。これからは心機一転して、新しいネタを考えることができるはずだ。
いかん。「紺ビニール傘」などという箸にも棒にもかからない言葉が浮かんでしまった。
もう、「コンビニ」から離れたい……。
予習でもするか……。──いや、待て。もう少し頑張ってみよう。今の俺ならきっといいネタを思いつく。きっとだ。
俺はネタを必死で考え、頭をフル回転させて考え、そして結局何も考えつかずに疲れてネタ。
続く




