『二階からメガスリー』
最近気付いたことだが、どうやら弟は「コンプレックス」と「コンプレッサー」を取り違えているようだ。
「あいつ、俺にコンプレッサー持ってるようでさ」
そんなふうに以前弟が言った時には、まあ言い間違えだろうなと思って、敢えて突っ込まなかった。
で、昨日の弟の発言がこれである。どうやらテストの成績がとっても悪かったらしい。
「俺、もうダメだ。俺、頭も悪いし、要領も悪いし、性格もコンプレッサーの塊でさ……」
コンプレッサーを固めてどうするんだと思ったが、落ち込んでいるようだったので、敢えて突っ込まなかった。
そして今日。なんかいいこと聞いたぞって感じのキラキラした目で弟が帰って来た。
「姉ちゃん、知ってるか? 『シネコン』って『シネマコンプレッサー』の略らしいぞ」
ああ、これは多分こういうことだ。こいつの思い違いに気付いた友達にこっそりからかわれてるんじゃないかな。いつまでも気付かないとは哀れなヤツ。
そして弟はこう言った。
「確かにたくさんの映画館が一つのところにギューッと圧縮されてるって感じだもんな」
あれ? コンプレッサーの意味はなんとなくわかってる?
さて、こんなアホな弟だが、精神年齢が低いだけあって、近頃、妙な特撮ヒーロー番組に凝っている。
ありきたりの子ども向け集団ヒーローだと思う。でも、弟に言わせると「センスがいい」らしい。あたしは別に何の興味もなかったのだが、なんだかんだで口車に乗せられて、一緒に録画を見ることになってしまった。これが信者の布教活動か。恐るべし。
タイトルは「二階からメガスリー」。
確かに斬新なタイトルだ。いや、「メガスリー」だけなら普通によくあるパターンのネーミングに過ぎない。ただ、なぜそれを「二階から目薬」に引っ掛けなければならなかったのか、そこに大きな疑問が残る。
で、出てきた三人組がこれ。
「メガポイント!」
ああ、「目が点になる」って言葉に掛かってるわけね。
「メガトライアングル!」
「目が三角」ってこと。
「メガスイミング!」
「目が泳いでる」ってことかな。
ストーリーはありきたりね。お約束のパターンばっかり。戦闘はちょっと熱いかな。
あ、敵の怪人が巨大化した。そろそろ終盤か。
「見ろよ、姉ちゃん。あれがメガスリーの誇る超次元戦闘空母『メガホエール』だっ!」
黒雲を裂き、稲妻とともに突然現れたそれは、つぶらな瞳が愛くるしい、巨大なメカクジラだった。目の輪郭がご丁寧にクジラの形をしている。
「『目くじら』の『くじら』って、海のクジラのことじゃないと思うけど……」
「気にすンなって。面白けりゃいいんだ」
「ガオーッ」
「あ、クジラが大声を出した」
「吠えてるんだよ」
ホエールだからか。この番組やっぱ変だわ。
「メガホエールが雄叫びを上げる時、スタンダップフォーメーションが発動するんだ。──見ろ、立つぜ、メガホエール、スタンドアップ!」
「ああ、クジラが立ち上がってロボットに変形した! 『目くじら』を立てやがった!」
あたしも思わず感激してしまったが、これが一瞬の気の迷いであることは言うまでもない。
チラと弟の顔を見ると、バッチリ目が合ってしまった。
「……メガミーティング……」
思わずあたしはそう呟いた。
続く




