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とうさんの思い出

 企業の倒産のニュースを聞くたびに、あたしは以前、お父さんと交わした会話を思い出す。

 こんな会話だった。


「あたし、さっき小耳に挟んだんだけど、近所の後藤さんち破産だって」

「え、マジかよ。破産とは、悲惨だな。なんでまた?」

「そこ、あたしの同級生がいるんだけど、お父さんの経営する会社が潰れたせいらしいわ」

「何? 後藤さんのお父さんの会社が倒産した? 理由は?」

「知らないけど、結局借金がかさんだからでしょ」

「なるほど。倒産したのは借金がかーさんだからか。ククク」

「何二タニタしてるのよ。ホント、うさんくさいんだから」

「お、ホン『ト、うさん』くさい、とはお前、なかなかやるな」


 お父さんは氷点下レベルのサムいダジャレが滅法好きだ。この時は「とうさん」という言葉に過剰に反応しているみたいだった。

「どいてくれない? 後藤さんを励ましに行くの。気を落とさないでって」

「いや、『通さん』」

 ほらね。

「なんでよ」

「ちゃんと、おさんどんを済ませてからだ」

 お父さんが笑いを堪えてるような顔で言った。──あ、「ちゃん『と、おさん』どん」か。ダジャレになってたのね。今やっと気付いたわ。


「帰ってからじゃダメ?──わかったわよ。手抜きでいいならパパッと作ったげるわ」

「クククク。お父さんに向かって『パパッ』ととは……」

恐ろしくどうでもいいことでお父さんは笑った。


 十分後。

「はい、お待っとうさん。オヤジ、じゃなかった、おじやよ」

 意図せずに言った言葉をダジャレ扱いされてしまったことにカチンときていたあたしは、つい対抗してしまった。

「コーヒーも頼む」

「はいはい」

「砂『糖、三』杯な」

「いつもそんなに入れてたら将来糖尿病になるわよ」

 クド過ぎるダジャレは無視するに限る。

「もうなりかけてる。今後、糖尿生活を送ることになるかも」

「闘病生活でしょ。シャレになってないから。悪化してもお父さんの介護の生活なんて真っ平だからね」

「よよよよ。よもや娘に見捨てられて、悔悟の生活を送ることになろうとは」

 お父さんは芝居っ気たっぷりに泣き真似をしてみせた。


 そして。

 後藤さんを激励したあたしは家に帰ってきた。

「ただいま」

「──ふむふむ。今回の人事じゃ自民『党三』役は留任か」

「珍しいわね。お父さんが政治のニュース見てるなんて」

 まだやってる、と思いながらも、あたしはそこには突っ込まないことにした。

「ほっとけ。──それはそうと後藤さんちどうだった?」

「暗かった。話を聞いてみたら、なんか後藤さんのお父さん、業界内で不正をやってて、それで信用を失って事業が立ち行かなくなったんだって」

「自業自得か。お天『道さん』に顔向けできないことをしてたら、いつかバチが当たるってもんだ」

「人のこと言えないでしょ。お母さんとの離婚の話し合いはどうなってるの?」

 あまりにしつこいので、嫌がらせにお父さんが触れられたくない話題を振ってやった。

 するとお父さんは途端に気まずそうな顔になり、

「ちちとして進まず」

と言いながら部屋を出て行ったのである。

「あ、逃げた! どこ行くの?」

 その問いに返ってきたのはこんな一言。

「──ブラッとお散歩」

 とことんしつこい男だった。


 思えばあたし達姉弟が揃ってダジャレ好きなのは、お父さんの遺伝かもしれないな。

 いや、絶対にそうだ。


 ちなみに……お父さんは、死んでいませんよ。


続く

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