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紅白ネタ合戦・前編

 弟の部屋を掃除にしに行った。思いのほか散らかっていないのが不気味だ。机に目をやると、これ見よがしにいつもの「アイデア帳」が置いてある。こいつに気付かせたいがために、わざわざ部屋を片づけておいたのだろう。ということは、よほど面白いネタを思いついたか。

 そういえば、弟は自作のネタをノートに書くようになってから、国語の成績が急上昇している。ずっとバカだバカだと思ってたのに、地頭は良かったのか。なんとも複雑な気分である。弟には、いつまでもバカさ加減をからかえる相手であってほしいものだ。


 さて、あんまり掃除するところもないみたいだし、思惑に乗ってやるとしよう。──ただ、弟とあたしとでは、実のところ面白いと感じるツボに微妙なズレがある。笑い転げるなんてことはないと思うよ。

 あたしは、大して期待もせずに「アイデア帳」を開いた。



 『松竹梅』


 俺の家にはスライムが住み着いている。スライムといっても、粘液状のおどろおどろしい人食いスライムではない。姿形はドラゴンクエストのスライムに瓜二つである。しかも青い。なかなか愉快な表情をしていて、人懐こく、悪さもしないので、敢えてどこにも通報しないで家に置いてやっている。


 ちなみに名前は、ドラゴンクエストのモンスターに似ていることから、「ドラクエのモンスター」を略して「ドラエモン」とした。青い体色にピッタリのネーミングである。

 ちょっと危ない名前だが、「えもん」がカタカナということに免じて許していただきたいと思う。


 このドラエモン、実は知能が高く、喋ることもできる。俺の部屋に住み着いた理由を訊くと、「ジメジメベトベトしてて気持ちいいから」と言いやがった。チクショー。俺だって好き好んでこんな部屋に住んでいるんじゃねえ。欠陥住宅の欠陥部屋を親に押しつけられただけだ。

 なのに除湿機すら買ってもらえない。母親に文句を言うと、「じゃあ、あたしがあんたの部屋に一緒に住んであげる。これがホントの『女子付き』」などと……。テメーは既に女子じゃねえ!


 ちと興奮してしまった。ああ、もうこんな部屋出て行きたい。



 その夜、俺はこんな夢を見た。


 ドラエモンの口の下に半円形の白いポケットがついている。これはきっとアレだ。未来の不思議な道具を出せるポケットに違いない。なんでそんなもの付いたのか知らないがとにかくラッキー。


 まあ、夢の中の認識なんて所詮こんなものだ。


「なあ、ドラエモン」

「何だい? 君は困ったことがあるとすぐに僕に頼るんだから」

 

 スライムのくせにやけに偉そうである。実は、俺がこいつに何かを頼んだことなんてかつて一度もない。だが、夢の中の俺はドラエモンの言葉を当たり前のように受け入れてしまっていた。


「頼むよ、ドラエモン。気晴らしにちょこっと飛んでみたいんだけど、何かいい道具があったら貸してほしいんだ」


 ドラエモンの上からの物言いに負けて、つい懇願口調になってしまう。


「飛びたいのかい。 『松・竹・梅』 の三つあるけど、どれにする? 詳しい説明は抜きで。直感で選ぶんだ」

「じゃあ、竹で」

「よし。──ハイ、『タケコプター』!」

 ドラエモンがポケットの中から例のマンガの秘密道具そのものを、念力で取り出す。名前までそのまんまだ。でもなんだか当たりっぽい。


 俺は、思いっきり空中遊泳を楽しんだ後、ドラエモンにタケコプターを返した。スゴい。何のオチもなかった。

「なかなか、良かったよ。ところで、松竹梅の残りの二つは何だったんだい?」

「教えてあげるよ。梅はね、『ウメコブチャー』!」

 ドラエモンはニンマリと笑いながら、湯飲み茶碗を取り出す。

 なるほど。竹がタケコプターで梅がウメコブチャーね。梅こぶ茶か。くだらない。


「でも、これじゃ飛べないだろ」

「飲めばわかる」

「飲めば? ──うぉっ! すっぺっ!」


「…………………………」

 あまりの酸っぱさに一瞬気を失ってしまったようだ。

「ほら。意識が飛んだ」


 コノヤロウ! と、握った拳が怒りで震える。

「じゃあ、松は!」

「松は『マツコブター』!」


 あれ、テレビでよく見かける身体の大きいデラックスな人が目の前に……。

「誰がブタよ。失礼ね!」

 俺は首根っこを掴まれ、ブン投げられた。天井と屋根を突き破り、どこまでも飛んで行く。そして、落ちた衝撃で目が覚めたのである。


 ああ、「とんだ」夢を見てしまった。


                                   完


 あたしは「アイデア帳」をそっと閉じた。まあ、面白くなかったわけじゃないんだけどね。ちょっと尻すぼみ気味かな。あたしだったら松・竹・梅と揃ったところで「チクショーばい!」って九州風に叫んで終わりにするわね。──いや、待てよ、それもありきたりで陳腐な感じがする。弟をひれ伏させるレベルじゃないや。


 よし、今度はあたしがオリジナルネタを作って、弟に格の違いを見せつけてやることにしよう。自分を笑い物にする自ギャグネタで勝負だっ。


「──ハイ、マケコシター」

  いや、そんな声は聞こえない。聞こえないんだから。


続く

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