雪はよいよい
今年になって初めてまとまった雪が降った。
真冬に地面が見えていることなど、雪国と呼ばれるこの地方では滅多になかったのだが、この冬は特別な暖冬らしい。今の今まで全く積雪はなかった。だから本当に久々の雪景色である。
雪を待ち望んでいた弟は大はしゃぎだ。
「雪が降りまスノウ」
やら、
「寒くて道が凍るど」
などと、先刻からつまらないダジャレを連発している。
別に大雪でもなんでもなくて、ほんの十五センチほど積っただけなのだが。東京の都心ならいざ知らず、この地方は、本来一メートル以上積って当たり前のところなのに。
「さあて、スキーにでも行ってこようか」
弟が楽しそうに言う。
「別に行かなくてもいいんじゃない」
「なんでだよ」
「さっきからスベリまくってるでしょ」
「ちょ、あれ、みんな結構良い出来だっただろ。『スキーが好きぃ』なんてのとはレベルが違うと思わないか?」
弟は心外そうに口を尖らせた。
「比較対象が低レベル過ぎるのよ」
「なんだと。じゃあ、勝負だ! これで姉ちゃんを唸らせてみせるぜ」
いや、勝負なんて全然する気ないんですけど。
で、弟が自信タップリに言い放ったジョークがこれ。
「スキーはよく行くんですか?」
「いやぁ、雪がなくてね」
「やっと降りましたね。良かったら、今度一緒にスキー場のてっぺんから滑りましょう」
「いやぁ、勇気がなくてね」
「もしかして、初心者ですか? 教えて差し上げますよ」
「いやあ、有給がなくてね」
「もしや、私を遠回しに避けているんじゃ……。そうならはっきり言ってくださいよ」
「いやあ、言う気がなくてね」
うーん。微妙過ぎて評価しづらいなあ。──あれ、弟が「しまった」って顔してる。言ってしまってから後悔してるっぽい。そうそう。頭の中では面白そうに思えたネタも、口に出してしまえば大したことないってケース、実際よくあるのよね。
「それでは積もる話もありますが、この辺で。──雪だけに……」
あっ、弟が勝手にうまくまとめて部屋を出て行こうとしてる。よほど恥ずかしかったみたい。
「どこ行くの?」
「庭で雪だるまでも作るわ」
弟は照れくさそうに言った。
「外はあんたのダジャレみたいに寒いから、風邪ひかないようにね」
「あいよ」
しばらくして庭に出てみると、ちゃんと雪だるまができていた。てっきりその場を離れる口実かと思ってたのに。雪だるまの横には、スコップで雪の山を作っている弟がいた。防寒着を重ね着して、着膨れになっている。これぞまさしく「着だるま」。
「そんなに雪をかき集めて何やってるのよ」
あたしが尋ねると弟は、無邪気な笑顏を浮かべて言った。
「かまくらを作るんだ」
「あんた、これっぽっちの雪じゃかまくらなんて無理じゃない?」
「庭じゅうの雪を集めたら作れるんじゃないかな」
「そう? じゃ、せいぜい頑張って。もし出来たら呼んでね」
「うっす」
約二時間後。弟があたしを呼ぶので、庭に出てみる。なんかかまくらっぽいものが出来てる。でも、全体的にかなり黒っぽい。雪をかき集める時に、地面の土も大量に混ざったのだろう。
内側を覗いてみる。やはり黒っぽくて汚らしい。これじゃあ、中に入ってミカンを食べようって気にはなれないな。
普通、かまくらの中って、雪が白く光って明るいもんじゃない? なのにこれは、中真っ暗。
続く




