趣味はお絵描き
久しぶりにデッサンの練習をしようと思って、果物と野菜の模型を押し入れから引っ張り出してきた。オレンジ、リンゴ、バナナ、キューリ、トマト、ゴーヤ、ナスである。
構図を考えながらそれらを一つ一つ器に乗せていると、お邪魔虫の弟がやってきた。
「よお、姉ちゃん。それって食えねえの? 本物そっくりなんだが」
そう言って弟がヒョイとゴーヤをつまみ上げる。
「かじっちゃダメよ」
「こんな苦いの、かじらねえよ」
いや、たぶん苦くない。じゃあ、リンゴの模型ならかじるのか?
そして弟はあたしの目の前にゴーヤを突きつけた。
「ジャーン。これがホントの『ゴーヤさんぷるー』」
あたしは思わず苦瓜を噛みつぶした顔でスルーした。
「返しなさい」
おっと危ない。もう少しで「返しやさい」と言ってしまうところだった。
「ほい。返したよ」
弟がゴーヤの上下をひっくり返す。見た目は何も変わっていない。
「ふざけてないで、戻して」
「おおこわ。はいはい。やっぱゴーヤって苦いのがウリだよな。『ゴーヤ食うは口に苦し』ってな」
そのシャレ「苦い」を通り越してもはや「苦しい」だけだから。ま、今は敢えてケチをつけないでおこう。絵を描く前ぐらいは、「なゴーヤか」な雰囲気を大事にしたい。
さて、そんなこんなで器に模型をいい感じに盛ることができた。いよいよデッサン開始である。さあ、描くぞ。レッツゴーや! ──いかんいかん。もうゴーヤばっかりに拘るのはやめよう。
弟はあたしが怒らないのをいいことに、いつの間にか野菜や果物の模型の向こうで、ボディビルダーみたいなポーズをとっていた。あたしが描きたいのは静物画であって生物画ではないのに。
「ちょっと、あんた邪魔よ」
「邪魔か? じゃ、また」
弟は拍子抜けするほどおとなしく部屋を出ていった。もしかして今のを言いたかっただけなのか?
ともあれお邪魔虫がいなくなったのは幸いである。あたしは、一人で黙々と鉛筆を走らせた。──が、どうも納得の行く出来に仕上がらない。何枚描いてもゴーヤのあのデコボコの質感をうまく表現できないのだ。あたしは自分の未熟を痛感した。本当に今日は最初から最後までゴーヤに付きまとわれている感じがする。
よし、次からはゴーヤを入れるのやめよう。「ゴーヤさん、今後無視」──弘法大師様に怒られそうな言葉が突如として頭に浮かんだ。
続く




