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大きいことはいいこと?

 些細なことで姉ちゃんとケンカしてしまった。ケンカ自体は日常茶飯事なのだが、今回はちょっと厄介である。俺に原因がある時は、俺が謝ってすぐに仲直りできるのに、姉ちゃんが悪い時にはどこまでも長引くのだ。理由は簡単。俺が謝らないからである。なぜいつもいつも俺が謝らなければならないのか。理不尽である。うちの姉ちゃん、普段あっさり・さっぱり系を気取っている割には、結構ネチっこいと思う。


 おかげで、今日は朝飯と昼飯にありつけなかった。日曜なもんで学校給食がなかったのが痛い。このまま行けば夕飯も食べさせてもらえないだろう。やはりこちらが頭を下げるべきか。いや、悪いのは向こうである。今度という今度こそは姉ちゃんに「悪かった」と言わせてみせる。兵糧攻めに屈してなるものか。


 とはいえ、俺は育ち盛りである。自他ともに認める大食らいの食いしん坊だ。午後六時になった今、ひもじくてひもじくてたまらない。腹の虫が餓死してもはやウンともスンともいわないレベルである。


 俺はずっと温め続けていたプランを実行に移すことにした。

「ちょっと出てくる」

 静まり返ったリビングに向かって言い置くと、俺は自転車を走らせた。

 もう頭の中は食べることだけだ。味は二の次。とにかくガツガツと胃袋に食べ物を詰め込みたい。だが、俺はその気持ちをグッと抑え、少し離れた店までひたすらペダルを漕いだ。


 店の名は「ジャンボ料理の店・多羅福たらふく」。かねてから行きたいと思っていた店である。しかし、月の小遣いがたんまりと残っている時期でないと、そして本当の空腹時でないと自腹を切ってまで行く気はしなかった。

 そう。行くならまさに今しかないのである。


 ちなみに姉ちゃんはあまり大食いではないので、この手の店に興味はない。ケンカしていない時に誘っても乗ってこないだろう。



 さて、三十分ほど走っただろうか。やっと目的の店に着いた。店員さんに席まで案内してもらうと、期待に胸が躍った。


 ここの料理はとにかくデカイと評判だ。小手調べにメニューの上の方にある三品を注文する。


 店員さんには「お一人で大丈夫ですか?」と訊かれたが、「大丈夫」と答えた。どうもこの店の料理は大人数で取り分けるのが基本らしい。しかし、空腹の俺に怖いものはない。たかが三品。どんなジャンボ料理でも胃袋に収めてみせる。


 最初にやってきたのは「花火玉」だった。

 しまった。いきなりおにぎりである。しかも本当に花火玉みたいだ。黒々とした海苔で包まれたまん丸のおにぎりに、ご丁寧にカンピョウで導火線までこしらえてある。以前、子どもも入れる居酒屋で「バクダン」なるおにぎりを食べたことがあるが、この「花火玉」はその何倍も大きい。尺玉クラスだ。

 メニューを見直すとこう書いてあった。

「特注で三尺玉まで作ります。中にはカヤクがたっぷり。ウマイ!」


 いやいやウマくないって。おにぎりの具を「カヤク」とは言わないだろ。──あれ、でも、そういえば「かやくご飯」ってのがあるな。おにぎりとは違うけど、この場合の「かやく」は具のことだよな。うーん……。


 まあ、そんなことはどうでもいい。俺はナイフとフォークで「花火玉」を切り分けながら食べた。とてもおにぎりの食べ方とは思えないが、デカ過ぎてかぶりつけないので仕方がない。俺は黙々と食べた。


 次に来たのは「ざるそば」である。もちろん特大だ。「どじょうすくい」に使うような巨大なざるの上に、そばがてんこ盛りになっている。またしても炭水化物だ。思わずメニューを見直すと、上から三つめまでは、この店の「人気料理ベストスリー」となっていた。後悔しても仕方がないので、ひたすらそばをすすり続ける。


 さすがに飽きた、と思ったところで、でっかいヤカンがテーブルに置かれた。

「そば湯です。そばつゆを割ってお飲みください」

 

 そう言われても……。3リットルはあるよ、これ。

 俺はめげそうになった。──まあいい。ちょっと飲んであとは残そう。


 そして、次に運ばれてきたタライのような大皿──その上にあるものを見て俺は絶句した。

十羽一唐揚じっぱひとからあげです」

 ニワトリ十羽分の肉に衣を付け、一気に油に投入してひとかたまりにした超特大の唐揚げ。

 「十把一絡げ」から思いついただけだろ、これ。絶対に二十人前以上はある。

 さすがの俺も一気に食欲が失せ、やっとの思いで四分の一ほど食べたところでギブアップ。


 食べ残しを持ち帰り容器に詰めてもらい、支払いを済ませる。レジの店員さんは、俺が注文の時「大丈夫です」と自信タップリに言った相手だった。どうにも気恥ずかしい。

 支払い金額はジャスト一万円。ジャンボ料理の店だけあって? 大雑把な値付けである。基本的に食べ放題で一人五千円なのだが、食べ残しがあるとペナルティで一万円になるのだという。どうせ完食できると髙をくくっていたので、その辺の説明はろくすっぽ聞いていなかった。

 俺は敗北感でうなだれつつ、一万円を払って店を出た。先月までの小遣いの残りと今月の小遣いが一気にパーである。もう二度と行かない。


 この食べ残し、どうしよう。この際、姉ちゃんにこれ持っていって、謝ってしまおうか。俺が悪いわけじゃないけど、俺が謝った方が手っとり早いよな。



 ところで、「ジャンボ料理の店・多羅福」──肝心の味はどうだったかというと、やはりジャンボ料理の店だけあって、大味である。

 メチャクチャ満腹にはなったものの満足感はあまりない。せっかく自転車を飛ばして遠くまできたというのに。

 「でかけりゃいい」ってもんじゃないな。


続く

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