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渾身のジョークを姉ちゃんに駄目出しされ、俺は悔しさのあまり「唇を噛みしめて」いた。小説で時折そういう表現があるので、ノリで実際にやってみたらメチャ痛い。マジでやるやつはいるのだろうか。
それはともかく悔しいことは悔しい。俺はネタ帳をめくった。前のネタとはガラリと違う、ストーリー性のある長めのやつをセレクトする。
これならどうだ。俺はネタを大声で読み上げた。
とある山奥。天を衝くような檜の大木の上で、大天狗が大勢のカラス天狗達と酒盛りをしていた。
「ささ、大天狗様」
「うむ」
「どうぞ。もう一杯」
「うむ」
大天狗はカラス天狗達から注がれる酒を次から次へと飲み干していく。
そのうち、すっかり酔いが回った大天狗は、威厳も何もなく与太話に興じ始めた。
「わしは『大天狗様』と呼ばれるのはもう飽き飽きしておるのじゃ。かといって人間みたいに他に本名があるわけでもなし。何かわしに相応しい呼び名はないかのう」
カラス天狗が言った。
「バットのように巨大で立派な鼻をしておられますから、『バッテング」なんてどうでヤンスか」
別のカラス天狗が言った。
「筋骨隆々の巨体と無敵の強さを誇っておられるゆえ、『ファイテング』がいいと思うでヤンス」
「バカめ」
大天狗がカミナリを落とす。
「お前らは英語の『ting』を機械的に『テング』に置き換えているだけではないか。ひねりが足りんぞ」
それを受けて、また別のカラス天狗が言った。
「鼻の色と毛穴の感じが『ゴボ天』に似ているので『ゴボテング』で……。いや、ゴボ天がおでんの具であることに引っ掛けて、ここは一つ『オデング』ということでいかがでヤンスか」
「くだらん。なんでこのわしが、そんな貧相なものに譬えられねばならんのだ。もっと斬新でオリジナリティに満ちあふれていて、今のわしにピッタリな呼び名はないのか」
そこで、さらなる別のカラス天狗が言った。
「ここは発想をガラリと切り換えて、『太眉ヒゲ筋肉ダルマピノキオ』では?」
「見た目の特徴を並べただけではないか。それに『ピノキオ』のどこにオリジナリティがある。この大馬鹿者めが!」
「ヒェ! 申し訳ないでヤンス。 ささ、このお酒でお怒りをお鎮めくださいでヤンス」
「こんなもので誤魔化され……。──いや……、まあ注がれた酒は飲んでやらないこともないが」
「拙者からもとうぞでヤンス」
「うむ。──おお、なんだかいい気分だわい」
「それではもう百杯ほど……」
さんざん飲まされた末、大天狗は酔い潰れて寝てしまった。
命名『グデングデング』
姉ちゃんの口許が綻んでいた。──これは、もしかして……。
「まあまあね」
「よしっ!」
思わず俺はガッツポーズをした。ネタ的には心許なかったけど、天狗になりきって熱演したのがよかったのかもしれないな。
そう思ったそばから、姉ちゃんは俺の鼻に軽くデコピンを入れ、こう言ったのだった。
「ちょっとあんた、テングになっちゃダメよ」
続く




