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質問タイム 2

 最近、弟は学校の勉強から逃避している。これが、ゲームやネットに逃げているというのならビシッと厳しく言ってやるところなのだが、微妙な感じの逃げ方なのでちょっと対応に困る。


 どういう心境がそうさせるのか、家にあった少し古めの百科事典を片っ端から読みあさっているのである。


「いや、俺って成績悪いけど、決して知能が低いわけじゃないと思うんだよな。ただ、絶対的に知識が足りないってことは自分でもよくわかってる。小学生レベルの基礎が頭に入ってないから、今一つ授業についていけないんだ。だから、事典を全部読んで、基礎的な知識を身に付ける」


 これが弟の言い分である。残念だけど、弟よ。あんたの知能は、最悪とはいわないまでも充分に低いわ。そもそも、事典の中に学校の勉強にすぐ役立つ情報なんてろくにないじゃない。


 昨日は「キノコ」の項目の中の「ベニテングタケ」の写真を見て、「俺、この毒キノコ食ったことある」と叫んでいた。きっと今も後遺症が残っているのだろう。


 で、時々、事典から得た付け焼き刃の知識で、あたしをやり込めようとするから始末に負えない。

 こんな調子である。



「なあ、ヨーロッパの言葉で、男性名詞や女性名詞があるやつ、あるよな」


 弟が偉そうに言った。やばい。あたしには全然わからない。答えられないと、バカにされるほどの知識なんだろうか? それもわからない。当てずっぽうでもとにかく何か答えなければ。英語じゃないことだけはわかるんだけど。


「ドイツ語とか、フランス語とかよね」

 どこかでチラっと聞いた気がする、というだけのあやふやな記憶を頼って言ってみた。


「うん」


 おお、合っていた。ギリギリのところでセーフ。

「あれって、無生物にも適用されるのな。知ってるか、『月』はフランス語だと女性名詞で、ドイツ語だと男性名詞だぞ」


「え、そうなの?」


 無理は禁物。これ以上の知ったかぶりは墓穴を掘る恐れがある。大丈夫。多分今の話は、知らなくて当たり前のレベルだと思う。


「じゃあ、無生物の場合、男性名詞か女性名詞かは、ひたすら暗記する以外に判断の方法がないってこと?」

「そういうこと。──さて、ここで問題です」


 突然、弟がニヤニヤと笑みを浮かべた。相変わらず、無駄に前フリの長い男である。


「『刺身』は女性でしょうか。男性でしょうか」


 えっ? ──あたしは思わずきょとんとした。


「『刺身』は日本語でしょ。日本語の名詞に性別なんかないじゃない」

「『刺身』に関してはあるんだ」


 弟が自信たっぷりに言う。


「でも、『刺身』に使う魚は、オス・メスなんて関係ないでしょ。なんでそこからいきなり性別が出てくるのよ?」

「ふふふ、降参か?」

「わかるわけないでしょ」


 あたしが匙を投げると、弟はしてやったりとばかりに声を張り上げた。


「ジャーン! 答えは男性デース。──なぜなら、『刺身』の添え物を『刺身のツマ』と言いマース。ゆえに『刺身』は夫、すなわち男デース!」

「あー、まじめに考えて損した」


続く


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