学習タイム
弟がチッと舌打ちをした。どういうわけだか知らないが、ブスッと面白くなさそうな表情をしている。
どうしたのかなと疑問に思っていると、弟の方から話し掛けてきた。
「明日から、『学力向上がんばろう月間』だとよ」
ああ、それで気分が滅入っているのか。大袈裟な。
「よかったじゃない。この機会にせいぜい頑張ることね」
「そりゃ、まあ、課題をやらなきゃ家に帰さないってんだから、やるけどさ」
何やら含みのある物言いである。勉強が嫌なんじゃないのか?
「あんた、 どうしたの? さっきから変よ」
「いや、な、『学力向上がんばろう月間』なんだけどな、担任の大沢がさ、勝手に略称を付けやがったんだよ」
「略称?」
話が見えない。
「ああ。『向上の月』ってな。スゲーうまいだろ。俺のお株を奪いやがった。 許せねえ」
「ふうん」
全くもってどうでもよかった。同情の余地なしである。
しばらくして弟があたしの部屋に来た。どうも「向上の月」には,宿題もちょっとだけ高度化するらしい。自力で解けない問題をあたしに解いてもらいたくて来たようだ。
「自分で解かないと、実力は付かないわよ」
一応忠告はするものの、弟に勉強を教えることに関しては、どちらかというと、あたしも前向きである。「アホの姉」と呼ばれるのがイヤだという、手前勝手な理由だが。
「まあ、この俺が本気でしばらく頑張ったら、解けないこともないと思うんだけどさ、頑張りが利かないんだよな。ほら、ちょっとやってみて糸口が見つからないと、だんだんとやる気が失せてくるわけよ。で、やる気が減るから、ますます解けなくなる。解けないからさらにやる気がなくなっちまう。まさにマイナスのスパイラル。この負のスパイラルを略して『マイナスパイラル』とでも呼ぼうか。おお、なかなかのネーミング」
あの「マイナスパイラル」で一文字省略するより、「負のスパイラル」の方がさらに一文字少ないんですけど。この略称、シッパイラルだわ。
「ま、何はともあれ、解いてみてよ」
「いいわよ。──どれ?」
ふふ、方程式か。この程度の数学の問題など朝飯前だわ。
受験生の頃は、こんな問題、一瞬見ただけで、ピカッと答えが閃いたもんよ。
ほら、ピカッと……。
「あれ?」
…………。昔の光、今いずこ。
続く




