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ことわざにツッコミ

 いつものことだが、本当にいつものことなのだが、弟の実力テストの結果が惨憺たるものだったらしい。特に悪かったのが国語。諺の意味を書く問題が全滅で、とりわけそこが納得いかないようだ。小学生のテストじゃあるまいし、諺の意味を答えるなんて、サービス問題もいいところだと思うのだが。

 

 で、これが出題された問題。 


 第一問

「犬も歩けば棒に当たる」

 弟の解答

「めったに起こらないこと」

 あたしの反応

「何それ?」

 弟の言い分

「だってさ、今の飼い犬なんて、リード無しじゃ散歩もさせてもらえないんだぜ。棒に当たろうとしたって、ゼッテー飼い主に阻止されるじゃん」

 あたしの言い分

「アホ」


 第二問

「糠に釘」

 弟の解答

「無意味なように見えて意味があること」

 あたしの反応

「どういうこと?」

 弟の言い分

「だって、『糠に釘』ってある意味常識だろ。ナスのぬか漬けの色落ち防止に、錆びた釘を使うじゃねえか」

 あたしの言い分

「あんたの脳味噌、糠じゃないの?」


 第三問

「割れ鍋にじ蓋」

 弟の解答

「無駄なこと」

 あたしの反応

「は?」

 弟の言い分

「綴じ蓋がなんなのか、全然わかんねえけど、割れ鍋にどんなスゲー蓋を使ったって使い物にならねえだろ。ただの不燃ゴミだ」

 あたしの言い分

「あんたの常識で勝手に諺を解釈してどうすんのよ。こういうのはね、辞書に書いてある意味のみが正解なの」


 要するに弟は、知識のなさを推理で補おうとして失敗したのである。──あ、ちなみに「綴じ蓋」というのは修繕した蓋のことなので、念のため。


 さて、あたしが噛んでふくめるように言って聞かせたにもかかわらず、弟はまだ得心が行っていないようである。


「諺なんて、全然今の時代に通用しないぜ。覚えるだけ時間の無駄だ」


 ほら、まだウダウダと言っている。


「『覆水盆に返らず』って何だよ。だいたいお盆で水を汲むのか? お盆で水を運ぶのか?」


 いや、それをあたしに聞かれても。


「『二兎を追う者は一兎をも得ず』って何だよ。前提がおかしいだろ。実際、全く同じ方向にウサギが移動しねえ限り、一人で二兎を同時に追うことなんて、はなっから不可能じゃねえか。わざわざ諺で言われなくたって、一兎しか追えねえよ」


 おお、珍しく弟がキレている。こんなどうでもいいことで。


「『あばたもエクボ』って何だよ。エクボが可愛らしいのは口の両側に一つずつちょこっとあるからだ。そいつが五個も十個もあったら気持ち悪いだろうが」


 ちょっと納得してしまった。こういう物の見方は割りかし個性的で好きだ。


 そして弟は最後に「子はかすがい」を槍玉にあげた。


「だいたい、今の時代、子どもなんて、夫婦にとって「かすがい」というほどの大それたもんじゃないだろ。せいぜい「ホッチキスの針」程度だと思うぜ」


 なるほど、とあたしは思った。確かに、子どもがいないと生活に「ハリがなくなる」ともいうしね。


続く

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