別れ話
弟が微妙な顏で帰って来た。うんざりしているような、困ったような、白けたような──まあ、本当に微妙な顏である。
「どうしたの? 変な顏しちゃって。カエルでも自転車で轢いちゃった?」
「いや、そんなんじゃねえよ。ただ、帰り道に修羅場見ちゃってさ。モチロン他人のだけどよ」
「へえ。どんなの?」
「よくある男と女の別れ話ってやつだよ。しかしまあ、交差点でやんなって」
確かにそれははた迷惑である。
「で、さ、別れ話を切り出したのは男の方らしいんだ。女が涙ポロポロこぼしながら『信じてたのにぃ』って」
「言ったの?」
「言ったつもりだったんだろうけどさ……」
弟の歯切れは悪かった。
「噛んじゃって、『信じてタモリぃ』ってなった」
「え?」
「男は、『俺、タモリじゃねえよ』って去ってった」
「あんた、笑っちゃってヒンシュクかったりしなかったでしょうね」
「いや、俺にだって『笑ってる場合ですよ』って雰囲気じゃないことぐらいわかる」
あんた、なんでそんな古い番組知ってるのよ? でも、その番組、タモリ出てないから。出てたの後番組だから。そういや、その後番組もしばらく前に終わっちゃったわね……。
「それはそうと、その女、昔、姉ちゃんをいじめてた『トモ』みたいだったぜ」
「え、そうなの?」
よっしゃあ、「笑っていいトモ」!──あ、今のなし。ただのジョーク。あたし、トモにはもう、わだかまりなんてないから。他人の不幸を喜ぶ趣味なんてないですから、本当に。
「まあ、何にしろ、嫌な場面に出くわしちまったよ。『恋人同士の別れ話による修羅場』──略して……」
また始まった。ホントに何でも略したがる弟だ。略したからどうなるっていうの。
「『恋人』プラス『さらば』プラス『修羅場』で……」
おお、「さらば」と「修羅場」は語呂が合ってる。でも、そこにどう「恋人」を絡める?
「『修Lovers』ってとこかな」
うまいこと言うと思ってしまった。ちょっと悔しい。
続く




